そして震災から10年の今年、震災後も変わらず吹き続けるイナサと共に暮らす、漁師の佐藤吉男さん、松木波男さん、農家の佐藤利幸さんを軸に、津波によって失ってしまったもの、逆に守り継がれたものが活写された。
福田氏は言う。「2005年当時は“四季折々の風と共に暮らす人々”ということから入って、集落の力みたいなものを伝えたかったのですが、震災が起きてからは、そこにあったものが根こそぎなくなってしまったため、視点は変わった。でもドキュメンタリーというのはそういうもので、撮影をしているうちに、ある種生き物みたいにどんどん変化していくんです」。そして今回、“困難に直面したとき、人は何を拠り所にするのか”を見つめることになった。
しかし、その一方で震災とは関係なく16年に渡って終始一貫して伝えたいと思っていたメッセージも込められている。それは「荒浜に住む人たちの持つ賢さと力強さ」だ。
「いわゆる田舎にある密な人間関係が面倒だと感じて、都会に出てくる人って少なくないと思います。でもSNSなどでは、“誰かとつながりたい、自分の存在を認めて欲しい”という人も多い。そして他者との比較で自らの幸・不幸を測ったりする。荒浜の人たちは、自分を誰かと比べることなく、あの地域に生まれて、あの地域で一生を終えることに、なんら疑問を抱かない。その場でどう生きるか……非常にシンプルなのですが、その力強さや賢さというのは、人が生きていくうえでの大きな力になるのかなと感じるんです」。
「あの日、そして明日へ ~それぞれの3654日~」というNHKの震災10年プロジェクト全体をまとめる立場でもある福田制作統括は、この番組について「いわゆる震災番組という側面だけではなく、人が生きるための一つのヒントを提示できたら」という思いがあるという。
現在、新型コロナウイルスという新たな脅威に世界中がさらされているが、本作で描かれている人々から発せられる日本の集落の営みの力強さは、今後困難に立ち向かううえで、大きな気づきになるかもしれない。
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