――DASH村の土地を提供してくれた三瓶宝次さんは、今も草刈りなどの管理を続けているそうですね(朝日新聞デジタル、2021年1月6日付「DASH村、再興の日は来るか 土地貸した元町議の願い」)。
あそこは帰還困難区域と言って、住人の方でないと簡単に入れないので、土地の所有者でもある三瓶宝次さんが、定期的に建物がどうなっているかを見回りしてくれているんです。でも、10年経って建物は傷んでかなり崩れてきている部分もあるので、そういう朽ちていく姿を見ているのは、かなり心にくるものがあるんだろうなと思います。
――あの場所でDASH村を再興したいという思いは、いかがでしょうか。
個人的には、あの場所で再びDASH村を…という思いはあります。そして番組として、DASH村の続きができる未来を否定はしません。でも、現実的にDASH村へ帰るのには、想像以上の時間がかかることも事実です。だから今は、あそこで学んだ経験を別の場所でたくさん生かして、テレビの中の世界だけじゃなく、いろんな人が参加できるようなプロジェクトに発展できたらと思ってます。
というのも震災前まで、DASH村については放送で場所も明かさず、一般の方は絶対に入ってこられない隔離状態でやっていたんです。でもこれからの時代は、多くの人がぷらっと来て見られるような企画でもいいのかなと。例えば「新宿DASH」は東京富士大学の屋上をお借りしてやってるんですが、大学の職員さんや個人で屋上緑化をやっている方が「TOKIOさんの屋上の池を参考にしたいんで、ちょっと見学を…」なんてこともあるんです。だから、僕らが福島で学んだことって、テレビの外でも広がる可能性があるような気がします。
■“学ぶ一辺倒”から次のステージへ
――震災から10年という節目を迎えますが、これからの『ザ!鉄腕!DASH!!』の福島との向き合い方は、どのように考えられていますか?
震災から10年の今年はTOKIOにとって、各々が株式会社TOKIOや個人で新たな挑戦を始める節目の年になります。去年の今頃は、福島で米作りを学んで20年目ということもあり「僕らの米もいよいよ成人だね」なんて話をメンバーたちとしてたんです。でも結局、コロナ禍で福島に行けなくなり、東京で育てることになりました。実はこれが、福島の先輩たちに一切頼らない初めての米作り経験でした。で、なんとかTOKIOとスタッフで収穫までたどり着いて、改めて「米も僕らも成人できたのかな」と。そして、そのときに思ったのは“福島の先輩たちから学んで、福島で経験を積む”という意識を変えて、次のステージに進まなくちゃならないってことでした。
それは、福島との関係が切れるんじゃなくて、“学ぶ一辺倒”というのが終わるということ。これからは、福島の人たちにとって少しでも役に立ったり、新しいコミュニティができたり、挑戦する若者たちが生まれるようなことを、TOKIOと僕らが米作りをする中で発信していければと思ってます。
――具体的にはどのような構想があるのでしょうか?
震災から10年経って、再び農業ができるようになった地域はすごく増えてますけど、避難先から戻って来た住民の皆さんは、まだ3分の1程度という報道を目にしました。もちろんDASH村のある帰還困難区域は、まだ戻ることができません。しかし、制限が解除された地域でもなかなか住民の方は戻ってこられない。それは、避難した先で新たな生活拠点ができたこともあるだろうし、時間が経って荒れ地になった農地を再び生き返らせるのに相当な労力がかかるからかもしれません。
そこに、僕らがテレビとして何か関わることができないだろうか。農業が躊躇(ちゅうちょ)されるような場所で『鉄腕DASH』が挑戦したら……そこで再び安全で美味しいお米を作ることができるのなら……。福島で学んで“成人”したTOKIOと僕らが、失敗もあるかもしれないですけど、自分たちで考えて耕して福島でやってみる。それが、福島の未来にとって少しでもお役に立てたら、と考えています。
――単発的ではなく、長期的なプロジェクトになっていきそうですね。
そうですね。そこは時間をかけて根を張り、全員で汗をかきながらやっていこうと思っています。でも、決してテレビの中だけで展開している物語じゃなくて、地域の皆さんやテレビの前の皆さんの日常とつながっていくイメージです。ほんと福島って近いんです。新幹線に乗れば東京からすぐですから。だから、距離も内容もお茶の間と地続きになるものにしたいと思っています。
――株式会社TOKIOと一緒にできることも、たくさんあるような気がします。
そう思います。株式会社TOKIOもプロジェクトをいっぱい考えているみたいで、それは『鉄腕DASH』ともつながってくると思うんです。とにかく彼らは、超エネルギッシュなおじさんたちなんで(笑)、きっと今までテレビではできなかった要素や、むちゃくちゃ尖ったことなど、TOKIOのイメージそのままに、僕らが想像できないようなことにガンガン挑戦していくんじゃないかと楽しみにしています。
●島田総一郎
1975年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、99年に日本テレビ放送網入社。番組制作部門に配属され、『雷波少年』『ラジかる!!』『あの人は今!?』『日本史サスペンス劇場』などのディレクターを担当し、現在は『ザ!鉄腕!DASH!!』のほか、『幸せ!ボンビーガール』『I LOVE みんなのどうぶつ園』『マツコ会議』『ニノさん』の統轄プロデューサーを務める。