SAP ERPの保守切れ、および「SAP S/4 HANA」へのマイグレーションは企業にとって大きな課題だ。SAPは当初2025年だった保守期限を2年延長することを発表したが、企業の基幹システムの移行が大きなプロジェクトとなることに変わりはない。
SAPビジネスを強化する富士通では、このマイグレーション市場に向けて独シュナイダー・ノイライター・アンド・パートナー(SNP)と提携、SNPが提供するマイグレーション技術を利用した移行支援を行う。
Infosys日本代表を務めた後、2019年より富士通で執行役員常務を務める大西俊介氏、およびSNPの日本法人代表取締役社長の村出洋一氏、同CTO 横山公一氏にSAPマイグレーション市場について、戦略を聞いた。
富士通におけるSAPビジネスについて教えてください。
大西氏:SAPビジネスは、それまで製造業のグループが担当していましたが、グローバル起点で考えローカルに導入するというアプローチに変えていくために、2020年4月より日本をベースとした業種の組織という位置づけにしています。
狙いとしては、日本ローカルではなく、日系企業のお客様のグローバル展開という観点でDXを含めてサービスを提供すること、それから富士通グローバルビジネスの核となるデリバリーファンクションを整備・成長させること、この2つです。
2020年1月に立ち上げたDXビジネスを専門とするRidgelinezとの関係は?
大西氏:SI企業の中のコンサルティング会社のようなものではなく、お互い独立して展開しています。私が統括する製造業のチームの営業は上流工程をRidgelinezにすべて任せていませんし、Ridgelinez側も富士通のために存在するのではありません。重なるところは一緒にやるという関係を保っています。
SAPマイグレーションに対する戦略や富士通の強みについて教えてください。
大西氏:富士通のSAPビジネスは、日本では現在4位くらいです。7~8年前はあまりSAPビジネスのイメージを持たれていなかったと思いますが、2019年に入社して実感したのは、富士通のシステムインテグレーション能力はSAPビジネスにおいて重要だということです。特に大型プロジェクトは業務アプリケーションだけでなく、基盤やインフラなどの共通技術がしっかりできていないとうまくいきません。
富士通はハードウェアメーカーからスタートして全体をやってきたという経緯があり、ミドルウェアなど共通アプリケーション部分に秀でたエンジニアが多数います。業務アプリケーションとは違う領域で、この部分の人材育成は富士通のような大手ではないとできません。SAPではこのミドルウェアコンポーネントを”SAP Basis”(「SAP NetWeaver Application Server」)としており、SAP Basisを扱うことができるエンジニア集団は強みです。そのため、マイグレーションビジネスではこの強みを発揮できると見ています。
マイグレーションと言ってもいくつかの種類があります。新規で作り直す”Greenfield”は戦略から落としてビジネスモデルのあるべき姿を考えて進めていくことになるので、コンサル会社が強いでしょう。違うところでエッジを効かせて戦うとなると、やはり既存環境のデータやカスタマイズを移行する”Brownfield”だと見ています。
そして、SNPのデータ移行ソリューション「SNP Transformation Backbone(SNP T-Bone)」のことを知り、提携に至りました。SNPのソリューションはSAP Basisだけではなく、業務モジュールを含めて扱うことが必要です。T-Boneを使った「BLUEFIELD」アプローチでは、単純にマイグレーションして過去の負債をすべて継承するのではなく、取捨選択しながら進めるというハイブリッドアプローチであり、われわれの立ち位置にぴったりだと感じました。
SNPとの提携についてもう少し詳しく教えてください。
大西氏:SNPはSAPとSAP S/4HANA Selective Data Transition Engagementを締結しています。これが何を意味するのかというと、SAPのコアのテーブルを扱うことができるというお墨付きをもらったパートナーで、SAPを入れて世界で5社しかありません。すべてドイツの会社で、日本企業はありません。
SNPは設立して26年、1500人の従業員を擁していますが、大企業ではありません。グローバルでの展開でパートナーを必要としていたということもあります。
横山氏:SNPはSelective Data Transition契約をしている5社の中でも、ツールが充実しています。全部で26種のツールがあり、SAPのコンバージョンのあらゆるシチュエーションに対応できます。これを1つのパッケージにまとめ「CrystalBridge」として提供しています。
以前から個人的に、ビジネスコンサル分野は最もシステム化が遅れていると感じていました。普通の業務をするのにビジネスコンサルは必要ありません。CrystalBridgeはシステム化されており、SAPのベストプラクティスに準拠するソフトウェアも含まれています。
富士通さんとの提携でもう1つポイントになると思っているのが、クラウドです。富士通さんはMicrosoft Azureパートナー認定の最高レベル「Azure Expert MSP」を取得しており、「2019 Microsoft Partner for Year Awards」も受賞しています。SNPも「Cloud Move for Azure」としてAzureに自動ディプロイするシステムを共同で開発しています。
このように、富士通さんと開発の方向性が合うと感じています。
**参考
Microsoft Azureパートナー認定の最高レベル「Azure Expert MSP」を取得し、2019年国内No.1ベンダーに贈られるマイクロソフトの「Country Partner of the Year Awards」を受賞
マイクロソフト ジャパン パートナー オブ ザ イヤー 2020 受賞
SAPの保守期限が2027年に延長されました。この影響をどう見ていますか?
大西氏:2027年まで延長が発表されてすぐに新型コロナとなりました。リモートになる前は、感覚として”Brownfield”とか”リフティング”と言われる単純マイグレーションが増えたと思った時期がありました。それが、リモートになり単純なマイグレーションよりも、ちゃんと考えて「Greenfield」で、あるいはBLUEFIELDで進めようかというところが増えているように思います。
横山氏:日本ではSAPの導入は2000社と言われており、そのうち80%以上、つまり1600社以上が「S/4 HANA」に移行するといわれています。試算してみたところ、パートナー全社が頑張っても2025年までに1000社しかできません。S/4 HANAに移行したくても、残りの600社は移行できないということになります。
このようにSAPマイグレーションの市場は大きく、われわれは今後も自動コンバージョンのツールなどを提供する予定です。