フードロスへの取り組みとは?

――「@Kitchen」をオープンするにあたっては、どうやって出店者を集めたんですか。

坂:もともとの繋がりがあった方もいますし、Twitterアカウントを作って発信して、すぐにNHKさんからご連絡をいただいて放送していただいたり、ありがたいことに最初から結構色んなメディアにも取り上げていただいたので、それを見てお問い合わせいただいたりとか。募集はスムーズにいきました。

――出店者はどんな条件で参加されているのでしょうか。

坂:初期費用、固定家賃、光熱費も0円で、すべて弊社の方で負担していて、基本売り上げの歩合になります。食材については、有名店出身のシェフということで色々コネクションがあるので、それぞれ自分たちで仕入れています。ただ仕入先がない出店者に関しては、弊社の方で紹介して、法人と同じような契約で個人でも仕入れられるようにサポートしています。

――「@ Kitchen AOYAMA」では、“フードロス”をテーマにしているということですが、そこにはどんな思いがあったのでしょうか。

坂:「@ Kitchen」全体としては、「都内の専門店が集まる大人のフードコート」というコンセプトと、これから独立していきたいシェフたちを応援するというテーマがあります。そこに対して各店舗でコンセプトを設けているんですけど、この青山のお店のお話をいただいてどういうコンセプトにするか考えたときに、せっかくなら食べることの意味とか価値をよりつけていける方が良いなと思ったんです。「@ Kitchen AOYAMA」で食事をすることによって、シェフの独立支援になる、フードロスという社会問題を解決していけるっていう2つの軸を作りました。「食」って、生きるために栄養を摂るという目的もあると思うんですけど、「人を良くする」と書いて「食」なので、水道とか電気とかガスとか世の中のあらゆるインフラと比べたときに、食はインフラでもあり、且つ食を通して色んな人とのコミュニケーション、豊かさを得るものでもある思うんです。そういったところを再定義していけるようなお店を作りたいなというのも、理由の1つですね。今、コロナを機に失業率も増えていて、自殺される方も増えています。それも社会問題の1つだと思っていて、食事をしていても人や社会との接点がなくて心が枯渇してしまったりという問題がコロナに付随して生まれていると思うので、食を通して改めて人との繋がり、コミュニケーションを取ることとか、豊かさを再定義する、そして食事をすることで誰かの応援になり、フードロスという社会課題のお手伝いをできているというところ。今はどこで食事をしたいかを選べる時代だと思うので、そう思ったときに選ばれる飲食店になりたいと思っています。

  • 「@ Kitchen AOYAMA」で味わえる料理の数々

――働いている方もそういう考えに賛同してくれているという実感がありますか?

坂:賛同してくれる人が多いかはわからないんですけど、来てくれる人はそういうことに価値を感じて来てるなっていう感じですね。若手のシェフって、これからの自分のキャリアを考えたときに、美味しい料理を作るのは当たりまえ、その上でどんな価値を作っていくか、どんなお店を作っていくかということに、向き合っている人たちも多いです。私が何かをメッセージしているわけではないですけど、私が取り組んでいることが、彼らのヒントの一部になっている気はします。

――フードロスへの取り組みとは、具体的にどのようなことなんですか。

坂:フードロスに関しては、出店者単位で何かをやっているというよりは、弊社が窓口となって色んな生産者さんと繋がって契約して、一括で仕入れているという形です。

――この料理にはこの食材を使っていますよ、ということもメニューに表示されていたりするのでしょうか。

坂:そこは明確な提示はできないですね。本当の意味でフードロスを解決していこうと思ったら食材の種類や量は選べないと思うんですよね。そのときその野菜がどれだけ余っているかというのは、管理下にないので。飲食店としては、「今日は食材をこれぐらい発注したい」という希望があると思うんですけど、その希望通りに発注して本当の意味でフードロスが解決できるかというと、たぶんできなくて。フードロスというのは規格外だったり生産過多によって、本来ならお客さまに届けられる食材が届けられないという事情があるものなので、その食材の種類や量を指定するのは本当の意味で解決しようと思ったらできないんです。それがフードロスという問題のむずかしいところですし、そこを解決していきたいので、うちは一切種類も量も指定せずに、すべての生産者の方に、本来お客さまに届けられるはずが届けられていない食材を全部買い取るので、まとめて送ってくださいと言っています。

  • 「@ Kitchen AOYAMA」で味わえる料理の数々

――それは、シェフも腕の見せどころという感じですね。普段あまり使ったことがない食材だったりもするわけですよね?

坂:もちろんあるんですけど、それでもその食材を活かして美味しい料理にして提供できるというのがうちの強みです。その理由は2つあって、1つはシェアキッチンということで、イタリアン、和食、スイーツというあらゆるジャンルのシェフがいるので、いただいた食材がどこかしらで使えるというところです。例えば、里芋をもらったとして、イタリアン、フレンチではなかなか使えないじゃないですか? でも和食なら使えるとか、どこかしらのジャンルで吸収できるんです。もう1つは、色んな有名店のシェフたちなので、決めたメニューで美味しい料理を作るのは当たり前、次のステージ行こうということで、「何が来るかわからないけど、届いた食材を美味しく調理してお客さまに喜んでもらうのが本当のプロだよね」っていう価値観で仕事をしているんです。だから、彼らにとってもすごくチャレンジだと思います。そういう経験を積んだり腕を磨くことが、フードロスの解決に繋がるというのは、すごく素敵なことだと思いますし、「今日のおすすめ」とか「日替わりメニュー」とかあるんですけど、その背景がフードロスということを理解されているお客さまだったら、むしろそれを喜んで食べてくれると思います。

  • フードロスの観点で、生産者から届いた食材を美味しく調理

――実際に来店されるお客さんの反響はいかがですか?

坂:メディアで報道していただいたりということもあって、コンセプトを理解した上でご来店いただくお客さまが多いので、「がんばって! 」という感じで応援してくださってます。料理が美味しい、ということももちろんあるんですけど、それ以上の価値をご提供出てきているんじゃないかなって思っています。

「@Kitchen」のこれから

――今後のビジョンはどのようにお考えですか?

坂:まず、都内に10店舗を作っていくというところを見据えて今動いています。ただ世の中も変わりますし、時代も変わりますし、世の中に必要とされていることとか本質に沿って仕事をしたいです。今コロナという厳しい状況ではありますけど、その中で創り出せるもの、コロナ禍じゃないとできないこと、出会えない人もいっぱいいると思うので、枠に捉われず、自分が今まで何をやってきたかにも捉われずに、本当に今世の中に何が必要とされているかにフォーカスして、新たなサービスを生み出していきたいです。コロナで飲食業界は確かに厳しいと思うんですけど、どういう状況だったとしても人は絶対ごはんは食べますから。人がごはんを食べるときに、「この人が作るから食べたい」「このお店を応援したいから食べたい」って思われる自分になっていこうね、ということがテーマですね。そもそもの飲食店の目的って、料理を通してお客様に喜んでいただくことだと思うんです。その箱が飲食店だったと思うんですけど、その箱の価値が下がっていて、機能していないんだとしたら、その場所に固執して毎日期待しながら営業を続けるのではなく、自分の料理を通して色んなお客様に喜んでいただくという本質に沿って仕事をすれば、絶対そこに新たなビジネスチャンスがあると思います。今、うちはそこをすごく大事にしています。