2020年11月27日、eスポーツ大会やイベントを数多く手がける2社、「ウェルプレイド」と「RIZeST」が合併を発表しました。両社は2021年2月1日より、ウェルプレイド・ライゼスト株式会社として始動します。

ライバルとして成長を続けてきたeスポーツ企業が、なぜ合併という決断に至ったのか。そして、合併によって今後どのようなことを実現したいと考えているのか。ウェルプレイド・ライゼストの代表取締役を務める、現ウェルプレイド代表取締役・谷田優也氏、現ウェルプレイド代表取締役・髙尾恭平氏、現RIZeST代表取締役・古澤明仁氏の3人に、お話をうかがいました。

ウェルプレイド会社概要
ゲームプレイやゲーム観戦を1つのエンターテインメントとして昇華させるべく、あらゆるジャンルのイベントや大会の企画・運営、映像制作・配信を行う。また、世界を目指すプレイヤーの支援・マネジメントや、プレイヤーにフォーカスしたeスポーツ専門メディアの展開などを行っており、パブリッシャー・プレイヤー・視聴者すべてが1つのゲームに熱狂し、感動できる場を提供する。

RIZeST会社概要
eスポーツを持続可能な文化的・経済的・社会的なものにするべく、最先端の放送技術を駆使したeスポーツの番組制作ならびに放送、大会・リーグ運営、プロモーションを行う。また、eスポーツイベントに特化した施設「e-sports SQUARE AKIHABARA」を東京秋葉原に構え、イベント企画立案から番組制作、製品発表会にいたるまで年間180本以上のコンテンツを展開し、eスポーツを軸としたソリューションを提供する。

競合でありながら異なる生存戦略で拡大してきた2社

――まず最初に、お三方の簡単な自己紹介をお願いします。また、合併前・合併後に担う主な役割についても教えてください。

髙尾恭平氏(以下、髙尾):僕はもともと、ゲームデザイナーやゲームディレクターとして、ゲームを開発する側の仕事をしていました。2015年に、谷田とウェルプレイドを起業しています。

ウェルプレイドでの僕と谷田は役割分担が違っていて、谷田は表に立つ側。僕は事業計画を立てるなど、会社の戦略側を担うことが多いです。会社の文化や働き方などを言葉に落とし込んで、方向性を定めていくのも僕の役割ですね。

また、ゲームを作ってきた経験を活かし、eスポーツ大会の運営においてはルール策定に責任を持つ立場でもあります。合併後も大きな変化はなく、引き続きそれぞれ得意な領域を担当していく形になると思います。

  • ウェルプレイド・ライゼスト

    髙尾恭平氏

谷田優也氏(以下、谷田):僕はウェルプレイドという会社を、いろんな人に知ってもらう側の代表ですね。髙尾が考えたものを咀嚼して、ウェルプレイドのおもしろさを社内外に伝えて、人を巻き込んでいく。そうした役割を主に担ってきました。

合併後の役割もあまり変わらず、2社の文化が混ざり合っていく中で、代表の3人が一番楽しんでいる姿を表現し続けたいなと。「ライバルだった2社がくっついたら、こんなにおもしろそうな会社になるんだ」ということを、社内外に広く伝えることが一番の役割かなと思っています。

  • ウェルプレイド・ライゼスト

    谷田優也氏

古澤明仁氏(以下、古澤):僕はもともとロジクールという周辺機器ブランドにいて、オンラインゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』のeスポーツプロリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」にスポンサーする立場でした。そこから、自身がみるみるeスポーツにハマっていき、気づけばお金を出す側から、大会を作る側にまわってみたいと思うようになったことが、RIZeST立ち上げの経緯につながっています。

戦略に長けている髙尾さんと、広報的にそれを具現化する谷田さん。この2人に対して、僕はメーカーにいた経歴もあり、eスポーツをその周辺にどう活かし、いかに2次的、3次的に広げていけるかが僕の役目かなと思っていて。3人それぞれに持つ武器が違って、最強のパーティーになるんじゃないかと感じています。

  • ウェルプレイド・ライゼスト

    古澤明仁氏

――ウェルプレイドとRIZeST、それぞれが持つ特徴や強みについて教えてください。

古澤:ウェルプレイドの設立は2015年、RIZeSTは2016年。ほぼ同時期からそれぞれがeスポーツ事業を展開してきました。この2社は競合しているようで、実は偶然にもそれぞれ守備領域が違っていたんですよ。

RIZeSTはどちらかと言うと、「MOBA」や「FPS」といったジャンルのPCゲームを得意としてきましたが、ウェルプレイドは『クラッシュ・ロワイヤル』を筆頭にモバイルゲームを得意としています。今では、両社ともジャンルやプラットフォームを問わず対応できますが、上手いことすみ分けられてきたんですよね。

谷田:社内には、プレイヤーとして表に出ていた経験のある人が結構いて、コミュニティとの距離感の近さもウェルプレイドの強みの1つです。それから、僕と髙尾は自身がゲームメーカーに勤めていた経験があるので、大会運営におけるゲームメーカーさんとの調整に長けています。

一方で、RIZeSTはもともと広告代理店SANKOの子会社として立ち上がった経緯もあり、スポンサー企業との関係性に強みを持っています。

このような形で、ウェルプレイドとRIZeSTは両社の生存戦略が異なるがゆえに、お互いに大きくなってきた背景があるんですよね。それが、今回の合併によって、両社が持つ領域は一気に広がることになります。

――両社の持つ強みがパズルのように上手く噛み合う形になるんですね。

谷田:そうなんです。合併を発表した日、もちろんまわりの人たちもワクワクしてくれていましたけど、一番鳥肌が立っていたのは僕らなんじゃないかと思いますね。

同じ未来を目指すもの同士、合併は最善の策だった

――今回の合併は、どのような経緯で決まっていったのでしょうか?

髙尾:きっかけになった最初のタイミングは、ちょうど1年前くらいですね。3人で食事をしながら話す機会があって。そもそも2社は競合ではありつつも、バチバチした関係ではなく、情報交換をするような仲だったんです。

そこでお互いのビジョンについて話していたところ、会社としては競合だけれども、目指している未来は一緒ですよねと。そのうえで、業界がどんどん伸びていく状況の中、僕らが最善の策を取っていくにはどうすべきか、腹を割って話していきました。

2017年にウェルプレイドはカヤックと資本提携を行ったのですが、市場を引っ張っていくために足りないと思っていた組織力やスピードを獲得するためでもありました。僕としては、今回の合併もその決断に近いと思っています。ウェルプレイドとRIZeSTが持つ強みを踏まえて、市場に対してアプローチできる手を考えたら、合併は悪くない。むしろ最強なんじゃないかと、話を進めていきました。

古澤:最初は全然そんな話をするつもりじゃなかったんですけど(笑)。情報交換をしつつ、お互いの思っていることを話そうと思っていたのですが、一緒に話していてすごく馬が合うなという感覚がありましたね。

また、僕の中では1つ危機感を持っていたことがあって。eスポーツは2018年に流行語大賞候補になりましたけど、ブームってどのジャンルにおいても、どこかで踊り場に入って停滞していくものじゃないですか。

これは明確なロジックがあるわけではないのですが、2022年の終わりくらいまでに、何かしらのブレイクスルーを起こせなければ、eスポーツがいよいよマイナースポーツに仲間入りしてしまうのではないかと思ったんです。

そのために、社員数や事業規模を2倍、3倍……と拡大する必要があると判断したのですが、それをイチからやるのか――。スピード感を考えると、すでに阿吽の呼吸で業界のことがわかる人たちと手を握ることが、最善の答えなんじゃないかと思ったんですよね。

この話が進み始めてから今日に至るまでの間には、コロナという未曾有の事態もありました。その状況を両社なりに切り抜けて生き残れたことは、お互いに思うところもあったんですよ。「目の前にある生活、そして人に貢献できることって何だろう?」「個人として、会社として世の中に貢献できること、すべきことって何だろう?」って立ち位置がよりクリアになったというか、大切なことを再確認できた1年だったので、そのうえでこの合併の話ができたことも、すごく大きかったです。

  • ウェルプレイド・ライゼスト

――社内の体制などは、合併によってどう変化していくのでしょうか?

髙尾:業務上においても、それぞれの得意領域を掛け合わせていく形になります。ウェルプレイドとRIZeSTの2社を、単なる足し算にするのではなく、1と1を5とか10にしていくところが、今回の合併での一番の変化になるのかなと。

規模が小さかったころは、全員野球でこなしていく部分がありましたが、合併によってメンバーが増え、大会運営もより負担が少なくスムーズになるでしょう。それから、RIZeSTが持っている「e-sports SQUARE AKIHABARA」などの箱物ですね。我々もスタジオを持っていますが、サイズや用途の面で「表現の幅」も「提案の幅」も広がります。

また、今後さらに業界が発展していくにあたって、より規模の大きな案件が増えることが考えられます。そのときに、即席のチームでは対応しきれないところが確実に出てくるはず。これだけの規模で経験者がそろったチームを組めることは、最大のメリットじゃないでしょうか。

古澤:中学校に入学するときって、複数の小学校から入ってきますよね。 それに近いような感覚と言いますか(笑)。ワクワクがありつつ、手探りな状態でもあります。

かれこれ5年、ルーティン化させた業務をやっているところに、新しい人やノウハウが入ってくると、当然ながら刺激になります。eスポーツは扱っているものがデジタルですが、アナログな要素もすごく重要。そのアナログ側の人間に新たな気づきが生まれることによる、変化やアップデートは確実に起こると思います。

――合併を発表したときの、社内の反応はいかがでしたか。

谷田:対外的な発表の直前に、全社員を集めて社内で発表したんですよ。そしたら、まずは拍手でしたね。RIZeSTが手がけてきた大会に憧れを持つ社員も多くて、「そんな人たちと一緒に働けるんだ」と、かなり好意的に受け止めてもらえました。

今回のような合併は、経営者としても人生でなかなか経験できないことなので、どういう反応があるか、かなりドキドキしていたんです。僕らが感じているワクワク感をそのまま伝えれば、きっと社員もわかってくれるだろうと思っていたんですが、本当にその通り伝わって安心しました。

古澤:RIZeSTの社員を集めて発表したときは、ワーっと盛り上がるよりも、噛み締めるような反応が多かったですね。そのあとは1on1でそれぞれの社員と話し合いをしました。ウェルプレイドと現場で仕事したことがあるメンバーもいましたし、携わっている大会をオンオフ問わず見てきているメンバーが多いので、スッと理解してもらえたように思います。

あと、谷田さんと髙尾さんの2人に会ってみたいという声も多くて。すぐに懇親会を準備しました。もう3回くらい開催しましたね。ふたを開けてみれば、お互いに平均年齢もほぼ同じ30~31歳くらい。皆ゲームやeスポーツが好きで仕事をしているので、好きなタイトルが違っても共通する話題が多く、一気に打ち解けていく感じがありました。

職種ごとに集めたりもしたんですが、かなり盛り上がっていましたね。技術チームのメンバーを集めたときなんかは、専門用語が飛び交っていて、ケーブルの話でそんなにアツくなれるのかみたいな(笑)。そうやって両社が交わっていくところを見ていて、すごくうれしかったです。