JR北海道は年末年始の2020年12月31日から2021年1月4日まで、北海道新幹線の青函トンネル区間において、最高速度210km/hでの営業運転を初めて実施した。

  • 北海道新幹線H5系

    北海道新幹線H5系

これは現行の最高速度(160km/h)よりも50km/h速く、北海道新幹線の高速化を目指すJR北海道や沿線自治体にとっては大きな意味を持つ。そこで、青函トンネル内を最高速度210km/hで走る北海道・東北新幹線「はやぶさ」に実際に乗り、「時速50キロの違い」を体感することにした。

■北海道新幹線の青函トンネル区間はなぜ遅い?

北海道・東北新幹線用の車両H5系・E5系の最高速度は320km/hで、実際に東北新幹線宇都宮~盛岡間では、最高速度320km/hでの運行を実現している。ところが前述の通り、北海道新幹線の青函トンネル区間(約54km)の最高速度は現在、160km/hに抑えられている。2016年の開業後、約3年間はさらに遅い140km/hで同区間を走行していた。

これは、北海道新幹線が在来線列車(貨物列車)と同じ線路を共用する、他に例のない新幹線であることに起因する。北海道新幹線の新青森~新函館北斗間約149kmのうち、青函トンネルを含む約82kmは貨物列車との共用走行区間であり、当然のことながら新幹線と貨物列車のすれ違いがたびたび起きる。開業前は、この「すれ違い」によって大きな風圧が生じ、貨物列車の荷崩れなどが起きるのではないか……との懸念がぬぐい切れなかった(いまも完全になくなったわけではない)。

  • 青函トンネルも含む共用走行区間では、新幹線と貨物列車が運転される

そこでJR北海道は、実車によるすれ違い試験を青函トンネル内で重ね、安全性が確認できたことから、2019年3月のダイヤ改正で青函トンネル内の最高速度を160km/hに引き上げた。これにより、「はやぶさ」の東京~新函館北斗間の所要時間が4分短縮されて最短3時間58分となり、開業以来の悲願だった「4時間切り」を果たしたという経緯がある。

JR北海道は北海道新幹線の札幌延伸に向けてさらなる高速化をめざしており、今回はその一環として、貨物列車の運転が少ない年末年始に青函トンネル内で貨物列車とのすれ違いが発生しない時間帯を設定。該当する時間帯に青函トンネルを通過する新幹線の最高速度を210km/hに引き上げ、所要時間を3分短縮することとした。

対象となる列車は、6時30分から15時40分までの間に青函トンネルを通過する「はやぶさ」「はやて」上下合わせて14本。このうち、最速達列車の「はやぶさ7・13号」は、東京~新函館北斗間を3時間55分で結ぶことになった。

■青函トンネルの210km/h営業運転、車内での告知は

正月三が日が過ぎ、多くの会社が仕事始めとなった1月4日、新函館北斗駅から「はやぶさ18号」に乗車した。最高速度が引き上げられるのは青函トンネル区間のみなので、新青森駅まで約1時間の乗車となる。

  • 新函館北斗駅の改札

  • ホームの一歩外は雪に覆われている

この「はやぶさ18号」、本来なら新函館北斗駅9時35分発・新青森駅10時37分着なのだが、年末年始期間は3分遅い9時38分発となっていた。青函トンネル区間で所要時間が3分短縮されるため、その調整である。

走り出して間もなく、各駅の到着時刻などを知らせる車内放送が流れ出した。東京駅までの到着時刻を順に読み上げた後、「なお、青函トンネルには9時58分頃に参ります。青函トンネルに入りましたら、電光掲示板にご案内が表示されます」と続いた。

  • 正月三が日が過ぎたこともあり、乗客はごくわずかだった

  • E5系の車内

  • 「はやぶさ18号」が木古内駅に停車

木古内駅を通過したあたりで、車内の電光掲示板に、「この列車は青函トンネル内を最高速度210km/hで走行します! この年末年始の5日間(12月31日~1月4日)、北海道新幹線は青函トンネル内を初めて最高速度210km/hで営業運転します」との文字が流れた。

それと前後して、車内放送が青函トンネルの案内を始める。全長が53.85kmであり、海底部分は23.3km、最も深い部分は海面から240m下の地点を走ることなど、よどみなく説明していく。かつては2つの海底駅があったことや、現在は避難設備になっていることなど、少しマニアックな知識まで語っていく。

  • 青函トンネル内を最高速度210km/hで走行することを知らせる電光掲示板

ここまで青函トンネルについて詳しく語るのなら、210km/h走行についても語るのだろうか……と思い始めたそのとき、車内放送が「青函トンネルは、新幹線と在来線が同時に走行できるように3本のレールが敷かれた海底トンネルです」とさらにマニアックな方向に向かった。はやる気持ちをじらすように、「次に入りますトンネルが青函トンネルです」と続く。

20秒の沈黙の後、窓の外が暗闇に変わった。それと同時に、車内に聞こえてくる走行音も大きくなった。青函トンネルに入ったのだ。さらに5秒後、「只今、青函トンネルに入りました」と車内放送が再開された。「所要時間は、およそ19分です」と続く。ここでいよいよ210km/h走行について触れるのかと思ったが、一連の車内放送はここで終わった。その代わり、電光掲示板には先ほどと同じ内容が流れている。あくまでも放送ではなく、文字で知らせるということらしい。

■青函トンネル内で速度を上げて走行、乗り心地は

青函トンネルに入ってから、明らかにモーター音が大きくなったように感じる。トンネル内は反響するので、通常でも音が大きくなったように感じるが、それとは違った音が聞こえる。トンネルに入って数分が経過すると、車体の小刻みな振動と、それとは違う大きなリズムで繰り返す揺れを感じるようになった。