※編集部注:本記事はストーリー展開を解説する内容も一部含んでいます。知らない状態で映画をご覧になりたい方はご注意下さい。
■前半は『オーシャンズ11』や『ミッション:インポッシブル』のよう!?
そんな“半地下”と高台を舞台に、ジャンルレスな物語が展開していく。
「監督自身も言っていたのですが、前半はいわゆるケイパーもの、ミッションものの形式を取っています。ケイパーものというと、たとえば『オーシャンズ11』のような、ターゲットの組織のなかに入り込んでいって内部を操作してみたいな強奪ものですね。同時に、変装してミッションに挑むような『ミッション:インポッシブル』みたいな感じもある。しかもそれがコメディになっているんです。ものすごく笑うシーンがいっぱいあります」
そんな、つい「笑ってしまう」感じも、ポン・ジュノ作品の特徴だという。
「笑っちゃうんだけど、やっていることはすごくエグイ。長編デビュー作の『ほえる犬は噛まない』からしてそうです。『殺人の追憶』もそうですね。ものすごく残酷な殺人事件、しかも実話を描いたものにも関わらず、あっちこっちにコメディシーンがあって、笑わせるようにできている。その辺のいじわるな、居心地の悪さみたいなものを感じさせるところがポン・ジュノ監督の特殊なところです」
『殺人の追憶』といえば、本作で主演を務めたソン・ガンホとの初タッグ作でもある。その後、ポン・ジュノ監督とソン・ガンホは、『グエムル-漢江の怪物-』『スノーピアサー』で組んできており、本作が4度目のタッグとなった。
「監督が、ソン・ガンホは、どんなに悪いことをしても観客が全然憎めない非常に稀有なキャラクターだと言っています。もしも今回のキム一家のお父さんを、ほかの人が演じていたら、『なんて奴だ』と観る人の心が離れていくと思うのですが、ソン・ガンホが演じると、観客は共感をもって観てしまう。すごく貴重な才能を持った俳優です」
本作では、特に彼の“表情”に注目だ。
「後半、キムお父さんはほとんどしゃべらなくなるんですけど、パク家の奥さんの買い物に同行するあたりから、どんどん表情が暗くなっていきます。そしてある事件が起きますが、あれは突然起きたのではないことが、ソン・ガンホの表情からよく分かります。セリフではなく、顔の演技で見せていく。その辺はやっぱり彼の凄さです」
■『パラサイト』は、ジャンルものを超えた映画
そして町山氏は『パラサイト』は「全方向映画」だと評した。
「後半、物語は全く違う色合いを帯びていきます。詳しいことは言えませんが、『パラサイト』はキム家とパク家の二層構造だけには終わりません。前半はドタバタで大いに笑わされますが、一転してどんどん背筋が寒くなってくる。後半はホラーですからね。ビックリしますよ。社会派的なメッセージや現実を描く側面のある映画ながら、前半はケイパーもの、ミッションものとしてのサスペンスをコメディとして撮り、後半はホラーになる。しかも最後はすごくしっとりと深く終わる。『パラサイト』は、ジャンルものを超えた映画になりました。まさに全方向映画です!」
音声解説バージョンでは『パラサイト』が強く影響を受けた作品について、前半と後半を転換するスイッチといえる演出、撮影カメラにまつわる話、綿密な絵コンテ、他のキャストについてなど、町山氏によるさらなる解説が、2時間を超える本編と共に語られる。
望月ふみ
(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED