●私にとってのチューナーがうさぎちゃん

――先ほどお芝居で意識した点などについても触れていただきましたが、実際のアフレコ現場はどのような雰囲気でしたか?

三石 『前編』では、セーラー戦士5人とちびうさちゃんとまもちゃんとエリオスくんを演じる声優が、同じ空間に集まって収録することができました。女子たちは仕事外でも会っていたので「超久しぶり!」という感じではありませんでしたが、それでもスタジオに集まるとかしましい(笑)。もちろん本番になったら芝居に集中していましたが、現場に集まれたのが嬉しくて、ついついお喋りをしてしまいました。今はみんなになかなか会えない状況になってしまい、寂しいですね。本音を言えば、仕事でももっと同じ時間を共有したいです。

――うさぎ以外のセーラー戦士4人やちびうさ、衛さんなどは『美少女戦士セーラームーンCrystal』でキャストが変更となりました。

三石 オーディションで選ばれて集結した皆さんですが、『美少女戦士セーラームーン』という往年の人気作ゆえに、並々ならぬプレッシャーを抱えていたと思います。ただ、今はそれを乗り越えて、それぞれの役柄を自分のなかに落とし込んで芝居ができていると感じています。変に気を遣って話しかけることもなく、安心して後ろから見ていられますね。

福圓 嬉しい言葉、ありがとうございます! ちびうさを演じる私にとっては、うさぎちゃんの存在って特に大きくて。うさぎちゃんがいないところでちびうさを演じると、あまりしっくりこないことが多いんですよね。私にとってのチューナーが、うさぎちゃんになっているんです。

三石 できることなら一緒に収録したいよね。そういうアフレコのスタイルで育ってきたから、どうしてもそれが体に馴染んでいて。その場でお互いのポジション取りをする、あの感覚は特別なものかなと思っています。

福圓 集まれずとも、せめて、みんなの声を聞きながら収録したいですね……。そういう意味では、『前編』で主要キャストが集まって収録できたのが本当によかったです。『後編』は新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として、少人数でのアフレコとなりました。

私はうさぎちゃんや衛さん、また別日でエリオスと一緒に収録したのですが、『前編』で集まってアフレコをしていたから、その場にいないみんなの声も思い出しながらお芝居ができたんです。それでも、やっぱり寂しいという気持ちはありました。セーラームーングッズやコラボの話で盛り上がる、あのかしましいスタジオが懐かしいです(笑)。

三石 みんなでグッズの話をするのが、楽しいんだよね!

福圓 楽しいです!『後編』のアフレコのとき、琴乃さんがセーラームーンコラボの化粧品と、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンとのコラボグッズのお土産をたくさん私にくださったんです。さらに、同じ日に、東映アニメーションさんからも袋がパンパンになるくらいのグッズをいただけて! セーラームーングッズに囲まれて、何とも幸せな一日でした(笑)。

三石 (笑)。

――そういう空気感が作品に影響することもありそうです。

三石 もちろん、そういうスタイルじゃなくても芝居をできなければいけませんが、あの空気感の中で演じることが芝居にもいい作用を働かせることがあります。何より集まれることが嬉しいんですよね。早くみんなでアフレコができるようになるといいな。

●月の光に導かれて集結したスタッフ

――『美少女戦士セーラームーン』が誕生してから、もうすぐ30年になります。おふたりは、ここまで長年多くの人から愛されるのには、『美少女戦士セーラームーン』にどういう魅力があるからだと感じていますか?

福圓 女の子が頑張って戦う、媚びずに自立して戦うという姿が、当時はセンセーショナルなことだったと思います。チョーカーやハイヒールの可愛さを知ったのも、悪霊退散という言葉を知ったのも『美少女戦士セーラームーン』。今や他の作品でも使われているようなアイテムや言葉のなかには、『美少女戦士セーラームーン』が原点のものがたくさんある気がします。それだけに、みんなの憧れとして、今もそれぞれの心に根強く残り続けているんじゃないかな。

――みんなの憧れであり続けている。

福圓 そうですね! そして、その憧れが色々な人や作品にいい影響を及ぼしているんだと思います。私が今も「水金地火木土天海冥」を覚えているのは、絶対に『美少女戦士セーラームーン』のおかげですからね(笑)。個人的には、「転生」というのにも心を打たれました。恋仲だった月の王女様と地球の王子様、そしてそれを取り巻くみんなが「転生」して今も一緒にいる。とても素敵なお話で、夢がありますよね。

三石 『美少女戦士セーラームーン』は、ドジで泣き虫、敵から逃げるといううさぎちゃんが主人公なんです。そんな自分よりもダメな子が変身して守ってくれるというギャップに驚いて、興味を持った子もたくさんいたんじゃないかな。「怖い、痛い、嫌だ」と正直に言える彼女だからこそ、信頼もできて、応援もしたくなったんだとも思います。加えて、コスチュームが可愛くて、恋愛要素もあり、うさぎちゃん以外のセーラー戦士も主人公になりえるくらい魅力的。『美少女戦士セーラームーン』には、女の子の夢がたくさん詰まっているんですよね。

――むしろ、人気が出て当然だった。

三石 当時は自分の芝居でいっぱいいっぱいでしたが、今思えば「そりゃ人気が出るだろう」と思います。また、昔の話で恐縮ですが、1990年代に『美少女戦士セーラームーン』のアニメスタッフは、自ら楽しみながら、クリエイターとしての熱意を注いでいたんです。スタッフも役者も、月の光に導かれて集結した。そんな気がしています。

――絵のクオリティや音楽、芝居など、作品がヒットするには色々な要因があると思います、ただ、最後に作品を盛り上げるのは作り手の「想い」なのかなと、常々感じています。

三石 そうだと思います。『美少女戦士セーラームーン』にもさまざまな想いが詰まっています。例えば敵対する相手。ただ悪いヤツということではなく、ちゃんとそれぞれにドラマがあるように描かれていました。

――倒された敵が「リフレッシュ!」などと叫ぶのも、印象的でした。

三石 見ている側もスッキリしますよね(笑)敵を殺すわけじゃない、癒やし、浄化する。そういう想いこそが、『美少女戦士セーラームーン』がここまで長く愛され続けてきた理由なんじゃないかな。

劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal』『前編』は2021年1月8日、『後編』は2月11日に公開。

(C)武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」製作委員会