AMD CPU
Intelの不調と対照的に、絶好調なのがAMD。2020年に投入したRyzen 5000シリーズは大きな性能の底上げもあり、完全にIntelを追い越すところに来た。勿論2021年にはIntelもRocket Lakeで追いつきたいと思っているだろうが、14nmを利用している限りにおいて絶対性能はともかく性能/消費電力比ではRyzen 5000シリーズの敵ではないだろう。10nm SuperFinを利用したAlder Lakeが出てくるとこのあたりで大分差が詰められる可能性はあるのだが、ただその頃には5nmに移行したZen 4が競合になる訳で、現実問題として、性能面でIntelがAMDと同じ土俵に並ぶことが出来るのは2022年以降になるのではないかと思う。
さてスケジュール的に言えばまず2021年の前半、2020年のパターンで言えば3月頃に発表があり、4月以降にモバイル向けから順次市場投入される感じになると思われるのが、Cezanneコアである。実を言うと、このRyzen 5000G(という表現はDesktop向けで、Mobile向けはRyzen 5000Uとかになる訳だが)はちょっと複雑で、Zen 2+Vega GPUであるLucienneと、Zen 3+Vega GPUであるCezanneが混在した形になっている。まずCezanneから説明すれば、これはZen 3コアに最大8CUのVegaコアを組み合わせた構造である。その意味では既存のRenoirことRyzen 4000シリーズからは大きくは変わらない。相違点はZen3コア以外で言えば、L3が16MBに増量されたこと(Renoirは最大8MB)、それと動作周波数の引き上げ(GPUが最大1750MHzから2000MHzにアップ)がある程度だ。
ではLucienneは? というと、これは要するにRenoir Refreshである。Lucienne、という名称は1965年に亡くなったフランス人画家のLucienne Bissonから取っていると思われるが、彼女はRenoirの隠し子であり、多分Refreshである事に掛けたのだと思われる(Cezanneの方は、Renoirと同時期の印象派画家として知られるPaul Cézanneから来ているのだろう)。コアはZen 2のままであり、L3も4MB×2という従来の構成のまま。GPUもVegaで最大8CUとなっており、動作周波数だけ若干変更した形になる。
現時点で聞こえてきているのは、偶数番台(Ryzen 3 5400U/Ryzen 5 5600U/Ryzen 5 5800U)がCezanne、奇数番台(Ryzen 3 5300U/Ryzen 5 5500U/Ryzen 7 5700U)がLucienneという話だ。このLucienneの方はRenoirベースの製品とほぼ同等のスペックで、恐らく性能もほぼ同等だろう。一方でCezanneの方はCPU性能が3割以上向上とされているが、これはZen 3のIPC向上がそのまま数字に出ているだけだろう。
NAVI系をGPUに持ち込むのは、恐らくDDR5世代まで見送りになるだろう。これはAMDだけでなくIntelのXeとかも同じだが、これ以上性能を上げるにはメモリ帯域を増やすしかない。Radeon RX 6000シリーズで投入されたInfinityCacheは一つの解ではあるが、APUにInfinityCacheを持ち込むとダイサイズが極端に肥大化してしまい、価格の面でターゲットを外れてしまう。HBM2のローカルキャッシュも同じであり、MCMを許容するDesktop向けはともかく、Single Die構成のAPU向けではむしろVegaをベースにする方がバランスが取れているという話であろう。DDR5世代になると帯域が倍になるから、またバランスが変わってくるとは思うのだが。
それはそれとして何でCezanneとLucienneが混在しているか、である。そんなにRenoirの在庫が積みあがっている、という訳でも無いとは思うのだが。ただZen 2→Zen 3では間違いなくエリアサイズが肥大化している上に、L3の容量も増やしているから、ダイサイズそのものはCezanneの方が大きいわけで、その分価格も高めにしなければならない。逆に言えばLucienneは相対的に安価に提供できるわけで、そのあたりも関係しているのかもしれない。どのみちAMDは組み込み向けにもRenoirを提供している関係で、引き続きRenoirを一定量生産せざるを得ない。そのあたりも加味してのProduct Mixなのかもしれない。
ちなみにこのCezanneなりLucienneなりがDesktop向けにいつ投入されるか、は定かではない。Renoirの際にもリテールマーケットに流さないという決断をしたにも拘わらず、まだバルク版が一定量流通している(流石に数は減ってきた気がする)あたりは、市場はそれなりにあると思うのだが、AMDとしては引き続きMobile向け攻略に重点を置くことになると思うので、登場したとしてもちょっと後(2021年7~8月あたり)になりそうだ。
これに続くのが、またもや9~10月あたりと思われるZen 4コアである。型番としてはRyzen 6000シリーズということになるのだろうが、こちらはDDR5やPCIe Gen5に対応した製品になるだろう。ということは既存のAM4と別れを告げて新しいSocket AM5に移行することになる。
ただこれも実は良く判らない。AMDの場合、Memory ControllerやPCIeなどのHost I/Fが別チップに分離されているから、例えば図2の様に2種類用意すれば(というか、AM4対応IODは現在Ryzen 3000/5000シリーズに使われているIODをそのまま使えば)AM4用のZen 4 RyzenとAM5用Zen 4 Ryzenの2つを作り分ける事は「技術的には」可能である。問題はそこまで手間暇掛けたところで、それに見合う売り上げが期待できるかどうかという話で、恐らくはSocket AM4はRyzen 5000シリーズで打ち止めになり、Ryzen 6000シリーズからはSocket AM5に移行となりそうに思える。
ちなみにこれが本当に「Socketなのか」も謎である。Socket AM4に関して以前Joe Macri氏にお話を聞いた時には「16Gまでは大丈夫」と言っていたが、32Gに速度が上がるとさすがにちょっと厳しそうな気がする。あるいはIntelと同じくLGAに移行しても不思議ではない。
Zen 4コアそのものについてはまだ詳細が不明なままである。恐らくプロセスはTSMCのN5ないしN5Pである。最近はIntelのTick-Toch戦略をAMDが再現している状況で、Zen2→Zen 3はプロセスを変えずに内部の改良に重点を置いたので、次は内部は大きくいじらずにプロセスを更新、というのが最大のトピックになるかもしれない。
ちなみにサーバー向けとしては、既にZen 3ベースのEPYCであるMilanが2020年中からαカスタマーにサンプル出荷されている事は既に公言されている(Photo08)。恐らく米国時間の1月12日に開催されるCES 2021の基調講演で正式に発表されることになるだろう。ただこれを利用したRyzen Threadripperがどうなるのかは不明である。こちらも技術的にはそんなに難しい話ではないから、ニーズがあれば投入されることになるだろう。ロードマップ的には、これに続きZen 4ベースとなるGenoaが控えているが、こちらも当然プラットフォームごと入れ替えになる。この世代になると、外部I/FにPCIe 5.0以外にInfinityFabricも用意されることになる筈だ。これはおそらく2021年の遅い時期、もしくは2022年初頭にに詳細が公開されることになるだろう。