――高橋さんご自身が『ゼロワン』の1年を通じて"変化"をしたと感じることはありますか。

第1話の撮影に入ったとき、僕はまだお芝居の経験も少なくて、まさにゼロからのスタートでした。或人も飛電インテリジェンスの社長になったのが第2話からで、僕も或人も一緒に歩んでいき、成長できればいいなと思っていました。でも、やっていくうちに作品世界の或人のほうがどんどん成長していき、僕としては或人の成長に追いつくのが大変だと感じるようになっていきました。途中、或人がこれだけ成長しているのに、僕はまだこんなところにいてはダメだ……みたいな感覚があって、巻き返すべくひたすら頑張り続けました。振り返ってみると、ちょっと或人の成長スピードには遅れたかもしれないけれど、最終的な"着地点"には一緒につけたのではないか、なんて思っています。

――或人を演じるにあたり、高橋さんが全話の中で「ここがターニングポイントになった」と思えるエピソードは何でしょう。

或人をとりまく環境は、第1話から厳しいものがありましたね。それこそ、2回に1回は或人にとってのターニングポイントと呼べる出来事が起きていました。第2話のマモルとか、第3話の一貫ニギローとか、自分が感情移入していたヒューマギアがハッキングされ暴走していくのを見て、彼らと戦わなければならない或人の辛さを受け止めないといけないな、と思いました。毎回の台本を読みながら、常に「今この瞬間が或人にとってのターニングポイントだ、大事にしなければ」と考えながら演じていました。そんな中で、もっとも大きなターニングポイントと呼べるのは、最終展開での或人の"闇堕ち"です。これまでずっと演じてきた或人のキャラクター性が、180度変わったらいったいどうなるのかなって、すごく考えながら演じました。イズの出来事があって闇に堕ちたときと、自分の中で踏ん切りがついて滅と向き合うと決めたときとでは、或人の心がかなり変化していると思うんです。そういった部分を強く意識しましたね。

――テレビシリーズを終え、映画の撮影に入られるときは、また気分を新たにして臨まれた感じでしょうか。

最終回のオールアップから、映画のクランクインまでは1か月くらい空いたんです。この間、僕はあえてまるまる1か月或人から距離を置いていました。1年間ずっと寄り添っていた人物なので、一度距離を置いて見つめ直さないと分からないこともあるんじゃないかと思い、ふたたび或人に向き合うのは撮影開始の1週間前にして、役を突き詰めていこうと考えました。

――映画はテレビ最終回の"その後"を描くストーリーだとうかがっています。台本を読まれたときの印象はいかがでしたか。

台本を読んで驚いたのは、或人がこんなセリフを言えるようになったのか……と思うほど、今までにないような言い回しがあったことです。テレビシリーズと同じ考えで、「或人はこんな言い方をしない」なんて僕が片づけてしまったら、脚本の高橋悠也さんや杉原輝昭監督たちが僕にかけているだろう"期待"を自分から消してしまうことになりますから、積極的に或人の変化を受け入るようにしたんです。

具体的に言うと、或人が「どうやら〇〇みたいだね」なんて言い方をするんです。テレビシリーズの或人はそんな聡明な言い回しを使ったことがないんですが、この「どうやら」を或人が言うことで、観てくれる方がどう思ってくれるだろうか、考えたら楽しくなってきたんです。杉原監督と「或人、なんかカッコよくなりすぎてません?」なんて言いながら、あまりクサいセリフにならないようにするにはどうすればいいか、話し合いながら演じました。

――『ゼロワン』のメインライターであり、或人のことも知り尽くしている高橋悠也さんだからこそ、或人の"変化"を意識した脚本を書かれたのかもしれないですね。

まさに、高橋(悠也)から高橋(文哉)への挑戦状というべきホン(脚本)でしたね(笑)。この台本を元に、いい意味でみなさんの想像と違う或人像にしたいと思って取り組みました。役としても僕自身としても、何らかの成長、ステップアップの跡をお見せできればなと思います。映画での或人は、テレビシリーズの或人とは一味も二味も印象が違っているぞ、と感じてもらえたらいいですね。

――テレビシリーズでもメイン監督を務められた杉原監督に、ご自身の"成長"をアピールできたと思えるような出来事があれば教えてください。

ゼロワンに変身するときの撮影などは、CGエフェクトがどうなるか分からない状態で演技をしないといけないんですが、杉原監督は口頭とジェスチャーで「どんなCGが入るのか」を説明してくれるんですよ。でも第1話のときは「これがこうなって、こういうふうになってこれくらいのもの(バッタ)が出てきて、こうなってこうなって、或人に被さってこうなるんだ」なんていう説明がさっぱり理解できず、最大限わかっても70%くらいだったのですが、今回の映画では杉原さんの説明に対して僕が「ここって動物が出てくるんですか? それとも人? なるほど。じゃあここから"人"がこういうふうに出てきて、エスの横にこんなふうに入ってくると思っていいんですね」「そうそう!」といった具合に、ずいぶん杉原さんのイメージが理解できるようになりましたね。杉原さんと長い時間を過ごして以心伝心できた、みたいな思いを感じていました(笑)。