こうして、SNSの“光”を感じたというが、一方で現実には、有名人が誹謗中傷で苦しめられるなど、大きな“影”が社会問題となっている。今回の本で自身を「炎上系のアナウンサー」と記している笠井アナだが、SNSとの付き合い方をどのように考えているのかを聞くと、「それは極めて簡単で、誹謗中傷のコメントを見ないということに尽きます」と答えてくれた。

「エゴサーチをしないということが、一番の対応策です。だって、何を書いたってアンチがいるんですから。フリーになって2カ月間、インスタグラムのフォロワー数は300人から増えなかったんですが、『がん』と報道が出て、『とくダネ!』で告白したら、300が1,000、1万、2万、3万、入院したら10万、20万、ブログは30万と、考えられない数の方たちから応援していただいたんです。けれど、どこかで引きずり降ろされるだろうなと思っていました。“出る杭は打たれる”というのが、ネットの定石ですから」

コロナ禍の自粛要請の中、パチンコ屋に並んでいる人や、渋谷で遊んでいる若者たちの姿を見て、「こっちは苦しい抗がん剤治療で閉じ込められてるのに、ただ家にいるのも我慢できないなんて」と怒りを覚えた笠井アナは、その思いをブログに記した。すると、これに賛同するコメントが多くに寄せられたが、想定外の場所で“炎上”が起こった。

「ブログを引用したネットニュースのコメント欄で、ものすごい非難の声があったんです。ブログのフォロワーさんに言われて見に行ったら、『病室から何言ってんだ。出てきて体験してみろ』『高みの見物してんじゃねぇよ』と罵詈雑言の嵐で。思いも寄らない反応でした」

退院後には、誹謗中傷のコメントがさらに増加。「『おまえ治ったんだろ』『いつまで笠井のニュースを流してるんだ』と。要は、僕の存在がネットで幅を利かせているのが嫌なんでしょうね、きっと。精神的に病むのは嫌なので、もう本当に見なくなりました」と遮断することにした。

■病室から世の中に訴えることができる

『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』(KADOKAWA刊)

そうした罵詈雑言を断ち切ることができたのは、SNSの中でもオープンなTwitterを使わなかったことが大きいという。

「Twitterは最も炎上しやすいですが、最も伝わりやすいし、インパクトがある。でも、僕の場合はインパクトを与えたかったわけじゃなくて、ブログやインスタを開設すれば、自分のことを応援してくれる人が『頑張って』って慰めてくれるかなと、恥ずかしながらそういう甘えた気持ちで始めたので、結果としてそれが“最大の防御策”になりました」と、直接的な被害を受けずにたくさんの“光”を感じることができたのだ。

そんな経験もした上で、「おそらく、がんを経験した方や、病気に苦しんでいる方で、この本に興味を持っている方は多いと思うんですけど、SNSをうまく活用すれば、とてつもない力になって病魔とも闘っていけるということを知ってほしい」と強調。さらに、「『自分は病気じゃないから関係ないや』と思っている方にも読んでもらって、『こういうことによって立ち上がれる人がいるのか』と知ってほしいですね」と呼びかけている。

●笠井信輔
1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、87年フジテレビジョンに入社し、『おはよう!ナイスデイ』『タイム3』『今夜は好奇心!』『THE WEEK』『FNNニュース555ザ・ヒューマン』『とくダネ!』『男おばさん!!』『バイキング』など、報道・情報番組を中心に担当。19年9月で同局を退社し、フリーアナウンサーとして活動するが、同年12月に悪性リンパ腫が判明し、療養へ。今年4月に退院、6月に完全寛解し、7月に仕事復帰すると、『男おばさん!!』(フジテレビTWO)や「第33回東京国際映画祭」のイベント司会などで活躍する。ほかにも、がん情報サイト「オンコロ」でインタビュー動画『笠井信輔のこんなの聞いてもいいですか』を公開し、新著を『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』(KADOKAWA刊)を11月18日に刊行。