ステージ4の血液のがん・悪性リンパ腫から復帰を果たしたフリーの笠井信輔アナウンサー。一時は死を覚悟しながらも、生きる希望を求めて奮闘した闘病の記録や、その中で感じたことなどを記した新著『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』(KADOKAWA刊)を、18日に刊行した。
この中で大きなテーマとして書かれているのが、多くの人から寄せられた応援の声が力になったという“SNSの光”だ。一方で、有名人への誹謗中傷をめぐる問題は後を絶たないが、闘病中でさえその標的となった経験を持つ笠井アナは、どのようにSNSと向き合っているのか――。
■ニュースでは“影”を伝えてきた
もともとは、昨年のフジテレビ退社後のタイミングで、自身のアナウンサー人生33年間を振り返る著書のオファーがあった。だがその頃には、身体の異変に伴う悪性リンパ腫の検査が進んでいて、「体があちこち痛いという状況」だったという。
その後、入院生活を送ることになるが、「もしテレビ復帰が難しいとなったら、執筆活動で生きていくことになるのかなとも思って、入院しながらでも書いていこうと考えていたんです」。とは言うものの、「抗がん剤治療を始めると、そんな考えは甘くて甘くて。とてもじゃないけど、本を書くなんてことができる状況じゃなくなったので、この話は立ち消えになったんです」。
そんな闘病生活の中で、自身のブログとインスタグラムに寄せられる声が、大きな力になる、という体験をした。
「今まで情報番組をやってきた中で、SNSに関するニュースはトラブルなど“影”の面を扱ってきて、“強者を引きずり下ろす”、そして“弱者につけ込む”ツールだと思っていたんです。でも、悪性リンパ腫という全く未知の世界に入って、ブログとインスタグラムに、ハンドルネームしか知らない人から、温かいメッセージをたくさんもらって、このつながりがこれほど“生きる力”を与えてくれるのか、ということに気づかされました」
多いときには、1つの投稿に1,000~2,000ものコメントが付いたそうで、その内容は励ましの言葉に加え、「私もがんでした」「今、がんの治療中です」「家族ががんです」という経験者や支える家族からも。それを読んで、「なんで自分はがんになったんだと思っていたのが、むしろがんになるほうが一般的で、それくらいこの病気と向き合っている人が多いんだと知りました」という。
さらに驚かされたのが、コメントした人たち同士のやりとりだ。
「私のブログのコメント欄で、ある方が病気についての悩みを投稿すると、別の人がそれに答えてあげているんです。『こんなにも人は、人を助けたいと思ってるのか』と感じて、本当に感動しました。そんな豊かなコメントをネット上だけに置いておくのはもったいない。自分が体験したこのSNSの“光”を伝えなきゃと思いました」と使命感を持ち、今回の執筆につながった。
■病室から世の中に訴えることができる
SNSで感じた“光”は、コメント欄に寄せられる声だけではなかった。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、ハリウッドスターたちが「#STAYHOME」を拡散しているのにならい、「#うちで過ごそう」と呼びかける運動を始めると、翌日に人気YouTuberのHIKAKINが、このハッシュタグの拡散を呼びかけたのだ。
「あれにも、とてつもなく“生きる力”をもらいました。病室にいても世の中に対して訴えることができるし、世の中とつながることができるんだと思って。いろんな人がTwitterや動画で『#うちで過ごそう』と投稿してくれて、あんな感動はなかったですね。だから、こうしてIT技術の発展した時代にがんになったから、心は救われる部分があったなと思いました」