今回は『心臓移植を待つ夫婦の1000日』というサブタイトルを付けた通り、患者を支える家族たちの苦悩も描かれている。その姿を間近で見て、「この病気は本当に家族の負担が重いんです」と力説。例えば、VADを入れて退院するには、機械の取り扱いや緊急時対応などの講習を受け、認められた「介助者」が、常に一緒にいないといけないのだ。
「日本はいろいろルールが厳しくて、あまりにも家族へ負担がかかるため、支えきれなくなって離婚されてしまうご夫婦もいるんです。もともと夫婦間で抱えていた問題が、病気や介助者の問題をきっかけに一気に表に出てきて、家族と一緒に暮らせなくなってしまったり、関係がうまくいかなくなってしまったりしたケースを、私もよく見てきました」
臓器提供の待機期間の長期化に追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスの流行も移植の減少に影響しているという。だからこそ、この番組を今放送する意義は大きい。
「移植医療というのは、もちろん『提供しない』という意思表示も含め、国民一人ひとりが参加できて、本気で取り組めば助かる人がすごく多くなるという珍しい医療なんです。アメリカや韓国は、国をあげて移植医療に取り組んできた結果、ものすごく数を伸ばしているのですが、日本は臓器移植法が成立した当初に賛否両論が巻き起こり、なんとなく『移植賛成』と言えないような雰囲気ができてしまい、それから今度は無関心になってしまった。この無関心こそ、一番どうしようもないことなので、今こそこの番組を放送して、メディアも注目しなければいけないのではないかという思いがあります」
■「サンサーラ」がいつにも増してシンクロ
15日に放送された前編の最後では、VADの機械を入れ替える交換手術を行ったクマさんが、術後3日たっても意識が戻らないという姿が映し出された。22日放送の後編では、その後のクマさんの状況や、改めてVADを付けて生活することの大変さが紹介されるが、「それでも希望を持って進んでいく人たちを描いています」と予告。
また、笑顔が絶えない明るく前向きな容子さんも、移植が近づくにつれて心境の変化が。家族の関係性も変わっていくことで、前編では見せなかった表情をカメラがとらえており、「あんなに精神的に強い容子さんでさえ、ああなってしまうというのは、それだけ重みのある医療なんですよね。ぜひ、彼女がどう変わるのかというのを見ていただきたいと思います」と注目点を明かした。
そして今回はいつにも増して、『ザ・ノンフィクション』のテーマ曲「サンサーラ」の“生きてる 生きている”という歌詞が、映像と見事にシンクロして沁(し)みるエンディングに。
八木Dは「最近、自殺の件数が多くなっているという報道もありますが、“生きる”とは何か、“家族”とは何だろうとか、いろんなメッセージが詰まっています。ぜひご家族や大切な人と一緒に見ていただければと思います」と呼びかけている。
●八木里美
1977年生まれ、東京都出身。学習院大学卒業後、青森朝日放送でニュースキャスター・記者・ディレクターとして取材現場に従事し、テレビ朝日『スーパーJチャンネル』を経て、04年にバンエイト入社。フジテレビ報道局で『スーパーニュース』を担当し、11年からは制作部でドキュメンタリー番組などを制作。『ザ・ノンフィクション』では、『愛はみえる~全盲夫婦の“たからもの”~』『わ・す・れ・な・い 明日に向かって~運命の少年』『“熱血和尚”シリーズ』などを担当。現在はほかにも、『フューチャーランナーズ~17の未来~』で総合演出を務める。