• 11月1日放送の後編より (C)フジテレビ

密着取材の最中に襲いかかった新型コロナ禍。ニュースや新聞では、経済面での大打撃が連日報じられているが、実は“やり直し”を目指す人たちにも大きな影響があった。後編では、高野さんが薬物依存の通院治療や依存回復のミーティングに、コロナの影響で参加できず、働きたいと思っても仕事がないという厳しい現状が明らかになる。

「依存症の人や“やり直し”をしたい人たちにとって、一番大切なのは“人とのつながり”なんです。しかし、『人と会ってはいけない』『家から出てはいけない』という世の中になって、彼らはより孤独になってしまい、精神的なダメージを受けていたんです。コロナの中で目を向けきれていない陰の部分だと思うので、こうした影響は伝えたいと思いました」

学さんによると、「コロナになって、また薬物依存に走ってしまう人が増えているという実感がある」とのことだ。

■ドキュメンタリーで異例のオリジナル音楽

『母の涙と罪と罰』シリーズでは、挿入音楽を作曲家の日向敏文氏が書き下ろしている。松たか子、中山美穂、Le Coupleらへの楽曲提供や、『東京ラブストーリー』『愛という名のもとに』『ひとつ屋根の下』など大ヒットドラマのサウンドトラックも手がけている人物だ。

ドキュメンタリー番組でオリジナルの楽曲が使用されるのは異例だが、日向氏と30年以上の付き合いがある河村正敏プロデューサー(セイビン映像研究所)との関係性で実現。番組側から曲のイメージを具体的にオーダーするのではなく、映像を見て作曲してもらっているそうで、今回の挿入音楽は「番組で起こる事象が強く、重いテーマなので、音楽はあまり主張しすぎないほうがいいという考えで作ってもらいました」(河村P)。

こうして制作された音楽が映像に乗ると、「心情をより強調してくれて、私が思いつきもしないような感情に運んでくれるんです」と長谷川Dが言うように、大きな効果をもたらしている。

■食事シーンに込めた「生きてほしい」

11月1日放送の後編『元ヤクザと66歳の元受刑者』は、高野さんを軸に展開されていくが、「“やり直し”というのが本当に難しい中で、学さんが決して諦めないで支え続けていく決意というのが、取材をしている私たちにも“希望”になっていたんです。その“希望”というものを、ぜひ感じてもらえたら」と呼びかける。

また、食べることの喜びが伝わってくる食事のシーンを意識的に多く映しているが、そこには、「生きてほしい」というメッセージが込められているという。河村Pも「今回の番組に登場する彼らだけでなく、社会で追い詰められて苦しい思いをしている人たちがいると思います。最近は特に“生きる”ということの意味を考えることが多くなっているからこそ、学さんの存在が“希望”になってくれたらいいなと思います」と願いを語った。

今後も、学さんのことを追いかけていくという長谷川Dは「撮るか撮らないかは分かりませんが、一生付き合っていきたいと思いますね」と意欲を示している。

  • 長谷川玲子ディレクター

●長谷川玲子
1988年生まれ、長野県出身。武蔵野美術大学卒業後、フリーの撮影スタッフとなり、13年にセイビン映像研究所に入社。撮影スタッフと並行して『母の涙と罪と罰』(18年)でディレクターデビューし、第35回ATP賞テレビグランプリで最優秀新人賞を受賞した。