コトラーのマーケティング理論の変遷
コトラーのマーケティング理論は、時代の移り変わりに合わせてアップデートされてきました。マーケティング1.0~4.0までの変遷をたどってみましょう。
コトラーのマーケティング1.0
マーケティング1.0は、製品中心のマーケティングです。 18世紀中半ばから19世紀にかけての産業革命をきっかけに大量生産・消費が可能となり、製品管理にポイントがおかれていました。
「マーケティング・ミックス」は1950年に提唱されるようになり、複数の手段を組み合わせたマーケティング戦略を計画・実施する認識が広まりました。1960年代には4P分析のフレームワークが確立、アメリカにおける製造業では欠かせない戦略となっていました。
マーケティング1.0の代表例としては、フォード・モーター社の「T型フォード」が挙げられます。ブラック単色のみという単一デザインのよい商品を大量生産し、マス向けの広告を打って大人気の車となりました。
コトラーのマーケティング2.0
マーケティング2.0は消費者中心のマーケティングです。 1970年代のオイルショックを発端に生じた消費の冷え込みから消費者中心のマーケティング概念が生まれ、これまでの製品中心のマーケティングから、顧客中心に考える「Segmentation (セグメント)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の「STP戦略」が提唱されるようになりました。
その後のパソコンの普及による情報技術の発達の影響もあり、STP戦略による消費者の「感情」に訴えかけるマーケティングが主流となりました。
コトラーのマーケティング3.0
マーケティング3.0は、ソーシャル・メディアの台頭により生まれた、「世界をよりよい場所にすること」に焦点を当てた価値主導のマーケティングです。
コトラーはソーシャル・メディアを次の2つのカテゴリーに分類しています。
コトラーによるソーシャルメディアの分類
分類 | メディアの種類 | 特徴 |
表現型ソーシャル・メディア | Facebook、Twitter、You Tube、Instagramなど | 消費者の意見や経験によって他の消費者に影響を与えることが可能 |
共働型ソーシャル・メディア | 食べログ、ウィキペディアなど | オープンなプラットフォームでユーザーが自由に編集作業を行い、集合知の力を最大限に活かすことが可能 |
マーケティング3.0ではソーシャル・メディアの台頭により市場の声に耳を傾けざるをえなくなり、製品・サービスの価値創造を消費者と共同で行う「共創(Co-Creation)」の概念が生まれました。この共創の概念により、従来「消費者(Consumer)」と呼ばれていた人々が「生産消費者(Prosumer)」へと変わることを可能になったのです。
またソーシャル・メディアやスマホの普及などによって、地球温暖化や人種差別などのさまざまな社会問題も消費者にダイレクトに認知されるようになり、消費者の価値観を変えるきっかけのひとつとなりました。
コトラーのマーケティング4.0
マーケティング4.0は「自己実現」がキーワードのマーケティングです。そしてこの自己実現は、神経病理学を研究していたクルト・ゴールドシュタインによって用いられたとも言われています。
マーケティングの変遷は、アメリカの心理学者のアブラハム・マズローが人の欲求を5段階で提唱した「欲求五段階説」理論にも当てはまり、マーケティング4.0は5段階目の「自己実現欲求」、人々が「あるべき自分」になりたいと願う欲求をポイントとしています。
マズローの「欲求五段階説」
- 生理的欲求(食欲・性欲などの本能的な欲求)
- 安全欲求(快適な暮らしに対する欲求)
- 社会的欲求(所属意識・仲間が欲しいという欲求)
- 承認・尊厳(承認欲求)
- 自己実現欲求(ありたい自分になる、あるべき自分でいる)
マズロー欲求五段階説において、コトラーは人間はすでに「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」までの段階は満たされていると唱えています。そのため現在のマーケティングは「自己実現」にフォーカスし、「自己実現欲求」こそ人間が本来満たすべき欲求であることを提言しています。
現代の世の中にはモノや情報があふれ、欲しい物は簡単に手に入るようになりました。情報が不足していた時代とは異なり、現代のマーケティング4.0には人々の生活や価値観の変化をなぞらえたマーケティングが必要です。ターゲットが考える自己実現を探ることが、現代マーケティングのカギを握っていると言えるでしょう。