9月に関東ローカルで再放送され、SNS上でも話題となった『のだめカンタービレ』は、武内監督の代表作と言ってもいい作品。その久々の再放送を監督はどのように見ていたのだろうか。
「放送から15年経って、初めて客観的に見られたというか、お客さんとして単純に、手前味噌なんですけど面白かったですね(笑)。ただドタバタしてるのかなって思ったら、後半は結構人間ドラマもしっかりしてるなと思いました」
そこから、今回の『ルパンの娘』へつながる思いも得たようで、「やっぱり背骨になる家族愛とか人間ドラマっていうのをしっかり作ってかないと、『のだめ』みたいにはならないなと思いました。今振り返ると、あの当時はすごくキレてて、いろいろ降りてきてたんだなと思いますね。よくこんなことやったなと思うし、竹中(直人)さんが(ドイツ人指揮者の)ミルヒーをやるのも僕のアイデアだったんですけど、あれを普通に外国人でやっていたらああいう風にはできていないですよね」と確認した。
『のだめ』は、以降の作品作りのヒントにもなった。「あんな風貌なのに竹中さんがすごくうまいからちゃんとセリフも響くんですよね。その成功体験があったから、『テルマエ・ロマエ』や『翔んで埼玉』などでのキャスティングへつながったように思います」
■熟成された“秘伝のタレ”を
このように、多くのコメディ作品でヒット作を手がけた武内監督だが、そのきっかけとなったのは、常盤貴子&深津絵里W主演『カバチタレ!』(01年)だ。そのプロデューサーを務めた山口雅俊氏は、マイナビニュースのインタビューで「『テルマエ・ロマエ』でワニが登場する際、“ワニ”とわざわざテロップを出す手法は『(山口作品の)専売特許だ!』と抗議した(笑)」と話していた。
そのことを伝えると、「ルパンでも『てんとう虫3号』ってテロップを出したりするし、そう言われてみればそうですね。てっきり自分のものだと思ってた(笑)。だから『カバチタレ!』で山口さんの影響も受けてるし、今回も『翔んで埼玉』のスタッフで、脚本も音楽も美術も演出も同じですから、“秘伝のタレ”がいろんなところで受け継がれている気がします。山口さんのエキスも入って継ぎ足し継ぎ足しでね(笑)。『電車男』をやって『のだめ』をやって『テルマエ』『翔んで埼玉』と良い順番でやってきましたし、その“秘伝のタレ”も熟成されてきてるなっていう風に思いますね」と答えてくれた。
様々な作品を経て、そのノウハウが十分に詰まっているに違いない『ルパンの娘』。前作だけでなく、これまでの武内監督作品と照らし合わせながら見るのも面白いだろう。
●武内英樹
1966年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学卒業後、90年にフジテレビジョン入社。『神様、もう少しだけ』『カバチタレ!』『電車男』『のだめカンタービレ』『デート~恋とはどんなものかしら~』『ルパンの娘』などドラマのほか、『テルマエ・ロマエ』『今夜、ロマンス劇場で』『翔んで埼玉』などの映画も監督している。昨年、映画『翔んで埼玉』で第43回日本アカデミー賞・最優秀監督賞を受賞。