Additive Manufacturingと3Dプリンタが製造業を変える
第2部は「Disrupting Industrial」と題して、デジタルマニュファクチャリングの将来についてのディスカッション。Additive Manufacturingは「付加製造」と訳されており、材料を付加しながら製造していく造形方法を指します。従来は粘土でしかできなかった手法ですが、3Dプリンタによって樹脂や金属でもできるようになりました。さらに、これまで利用されてきた試作用途だけでなく、現在は3Dプリンタで最終製品を作ることもできます。
3Dプリンタによる部品製造に関しては、コロナ禍の初期にHPの3Dプリンタを使用して400万個の医療機器部品を製造。医療機関に無償で提供する取り組みが行われるなど、アジアがこのトレンドの最先端です。日本から参加した2名のコメントを紹介します。
日産自動車 総合研究所 先端材料・プロセス研究所エキスパートリーダー 南部俊和氏は、パテル氏の「自動車産業は今後5年でイノベーションのTOP3になるといわれていますが、日産にとって最も関心のある分野は?」という問いに対し、最近は3Dプリンタの造形速度が大きく上がったことによって、2つの取り組みができると返答しました。
1つはフレキシブルでアジャイルな製造システム。従来の自動車製造は金型から作っているため、大量生産モデルが主体でした。3Dプリンタを使うことで少量生産でも多くを低コストにでき、自動車産業に大きな変革をもたらすと考えを述べました。
2つ目は3Dプリンタによって、複雑な部品を低コストで製造できること。「一般的に複雑な部品はコストが上がりますが、3Dプリンタは複雑なパーツを低コストで作れます。将来、自動車は電子化・軽量化・小型化が進んで効率性も高まっていきます。この2つの理由から、3Dプリンタは大きな貢献を果たすと思っています」(南部氏)
また、SOLIZE Products 代表取締役社長 田中瑞樹氏は、パテル氏の「パーソナル化、パーソナライゼーションがイノベーションをけん引していますか?」という問いかけに対し、2つの事例を出して様々な製造業で3Dプリンタが活用できると考えているとコメント。
「コロナウイルスが引き起こす状況の不確実性によって、医療機器が世界的に不足し、日本でも同じようなことが起こりました。弊社でファイスシールドなどを無料で医療機関に寄付したとき、エンジニアは医療業界のキーパーソンにヒアリングをして情報を集め、フェイスマスクのフレームをカスタマイズしました。いろんな情報を含めてフェイスマスクフレームの設計を緊急時でも迅速に行えました。
また、SOLIZEはOUI Inc.という医療ベンチャーが作成した小型アイカメラをサポートしました。これはスマートフォンに取り付けて眼科検査を行うものです。強度が高く精度が良いものをスマートフォンに取り付けるために、3Dプリンタを活用しました。デジタルデータを使うことで試行錯誤を早くでき、成果に反映する時間が革命的に短くなりました」(田中氏)
HPが行った調査では、ほとんどの回答者(96%)がデジタルマニュファクチャリング技術が経済成長につながると回答。75%は、デジタルマニュファクチャリング技術が自社の機敏性向上に役立つと回答しています。
HP Inc.は2015年に「パソコンとプリンタの会社」として再出発を遂げています。PCは高級路線が成功していたことに加え、コロナ禍で大きく着目されました。HPの創造性は、インクジェットプリンタで培ったマイクロ流体力学を、ほかの事業に応用しようとしているところにもあります。プリンタ事業は商業印刷や3Dプリンタで大きく発展し、特に3Dプリンタは多品種少量生産が可能なうえ、柔軟な製造が可能。今後の製造業を大きく変えるでしょう。