クリエイター支援を目的としたプロジェクト「DRAW A LOT」が、若手クリエイターに実践的な学びの場を提供するオンライン講座「Skill & Knowledge Input」。その記念すべき第1回目が10月7日に開催された。講師としてお笑いコンビ「ナイツ」のボケ担当、塙宣之氏が登場し、「大舞台で『いつもより』笑わせる方法」をテーマに講演。ここでは、その模様をお伝えする。

  • ナイツの塙宣之氏

横断型クリエイター応援プロジェクト「DRAW A LOT」

「DRAW A LOT」は、企業や自治体などのプラットフォーマーとクリエイターが出会うきっかけ作りを目的として、今年の8月にスタートしたばかりのプロジェクト。仕事のコンペやパートナー企業が協賛するプロジェクトの紹介など、さまざまな“きっかけ”をクリエイターに提供している。

その活動のうち、25歳以下の若手クリエイターに学びや実践の場を提供するプログラムが「DRAW A LOT College」だ。2~3週に1度のペースでクリエイターのスキルアップを目的としたセッションやコンペ、ステージイベントなどが行われており、今回の「Skill & Knowledge Input」もその一環として開催された。

講座内容は、クリエイティブ業界の第一線で活躍する著名人が自身の体験をもとに「自己のスキルを活かす」方法を指南していくというもの。記念すべき第1回となった今回は、お笑いコンビ「ナイツ」の塙宣之氏が講師として登壇し、DRAW A LOT総合プロデューサーの青山薫氏がモデレーターを務めた。

  • 講師を務めたお笑いコンビ「ナイツ」の塙宣之氏

  • DRAW A LOT総合プロデューサーの青山薫氏

大舞台を勝ち抜くにはタイミングや熱量が大切

青山氏によると「若手クリエイターがスキルを向上させていく中で、大舞台で他人から注目を浴びたり、作品に盛り込めない部分を言葉や文章で伝える必要に迫られたりする機会が出てくる。そうした場面に対応するためのインプットに適任だと思い、塙先生に講師を依頼した」とのこと。

その青山氏の紹介で登場した塙氏は、のっけから「俳優のナイツ 塙です。今日は役者として演技の話を中心にできればと思っています」と笑わせ、青山氏からツッコまれると「あれ? 演技論の話でしょ?」とボケを重ねて場を和ませていた。

今回の講座は、全国から選ばれた7名のクリエイターがオンラインで参加し、塙氏と青山氏による講演をライブ視聴しながら随時チャットで感想や質問、要望を投げかける方式で行われた。参加クリエイターは、今後、パートナー企業のエレコムが主催するコンペ「エレコムカップ」やワコム主催のクリエイティブイベント「Wacom Connected Ink 2020」などにも出場する機会があるが、そうしたステージでいかに実力を発揮するかというのが今回の講座のメインテーマだ。

25歳のときに漫才新人大賞を受賞して以降、数々の大舞台で栄誉を獲得してきた塙氏は、自身の体験を振り返りながら「こういった賞や大会でグランプリを獲るのはタイミングや熱量も大切」と指摘。その例として自身が2008年から3年連続で決勝進出しながら優勝を逃したM-1グランプリの体験を語った。

塙氏によれば、ナイツは2008年の夏ぐらいがいちばん脂が乗っていたそうだが、メディアなどに露出しすぎたこともあってそれをキープできず、M-1グランプリの決勝が行われる年末には鮮度が落ちてしまっていたという。ネタのおもしろさや熱量も優勝したコンビに比べると足りず、審査をする人たちに届かなかったのが敗因だったと分析した。

  • 塙宣之氏と青山薫氏。今回は新型コロナウイルス対策のため、リモート撮影により配信が行われた

ネタをパズルのように組み合わせて漫才を作る

イラストレーターなどのクリエイターは、伝えたいことをビジュアルに込めて作品を仕上げていく。しかし手法や媒体などの制約により、伝えたいことすべてを表現しきれないと感じることも少なくない。漫才もフォーマットはあるが、それが表現の枷になったりはしないのだろうか。

塙氏によれば、漫才を作るうえで「自分がおもしろいと思ったこと、やりたいことをやるというのが大前提にある」とのこと。それを漫才というスタイルの中ですべて表現するのは難しいと感じる場合もあるが、「表現しきれないと思うと表現できなくなる。全部表現できると思い定めると、ネタをパズルのように組み合わせていくことができる」そうだ。そのため漫才という手法が表現の枷になると感じることはないという。

その「パズルのように組み合わせていく作り方」については共感を覚えるクリエイターも少なくないようで、塙氏の言葉にチャットで即座に反応を示す人も。たとえば、デジタルで描いたイラストにアナログの油彩や写真などを組み合わせて作品を制作しているクリエイターからは「自分の作品の作り方や考え方に似ているかも」という声が上がった。

塙氏は「自分が経験したことを全部ネタとして出して、それを組み合わせていけるのが漫才のおもしろいところ。ムダになるところがない」とも語っていたが、「ひとつの表現手法の枠の中でパズルを組み立てるように作品を作る」という考え方は、クリエイターにとっても参考になりそうだ。

  • 塙宣之氏

  • 青山薫氏