クライマックスは「日の出」
番組最大のクライマックスは、宇宙から見た「日の出」。真っ暗な夜空の中にうっすらと青い筋がうかびあがり、徐々に白い地球大気層の帯が広がっていき、やがて神々しいオレンジ色の光が夜の地球を一瞬で昼に変える。私はある宇宙飛行士から日の出前の夜の地球にまず一筋の青い光が現れることを聞き、見てみたいと思っていた。今回のライブ中継で暗闇に青い筋が浮かび上がったとき、「これが、あの青い光か!」と鳥肌が立つ思いだった。
日の出の一部始終を生中継することは企画時から考えていたのだろうか? 「ISSからの日の出の映像を皆で見たとき『これは本当にすごいものになる』と感じて本番に入れることにしました」(馬場氏)
ところがここで想定外の事態が発生。暗闇から青い筋が浮かび上がってきたあと、CMが入ってしまったのだ。「日の出の時間は2週間前にNASAから軌道情報をもらってわかっていたのですが、大気層の光の変化まで含めてシミュレーションをするのは結構難しい。あんなにいいところにCMが入るとは思っていなかった。ドキドキしてCMが『早く終われ!』と思っていました(笑)」(馬場氏)
結果的に太陽が顔を出すまでにはかなり時間がかかったため、ご来光の瞬間を番組視聴者が堪能することができた。これが「公開実験放送」であるがゆえのドキドキするところでもあるだろう。
次の番組発表は11月予定
テクニカルディレクターの武田さんは高校の時から天文好き。流れ星を電波でとらえる研究を続けてきて、流れ星が流れるとイルミネーションが光る「流星放送局」というプロジェクトをテレビとスマホを連動させ実現した。それだけに今回の放送への思い入れは強い。
「本当は自前でパソコンや機材を宇宙に打ち上げて色々なものを表示したかった。でも(自前で機材を上げる場合)時間的にも3年以上、予算も数億と現実的には難しい。そうなると今宇宙にある仕組みを使ってやるのがベストでした」。今回の放送は「想像よりも世の中の反応がよかった。アンケートで一番反響が多かったのが日の出、次が『みんなのコメントが宇宙に表示されたこと』という回答でした。宇宙に自分が触れられる機会を作ることに価値があることを確信できました」
クリエイティブディレクターの馬場さんはインタラクティブなコンテンツを多く手掛けてきた。KIBO宇宙放送局とコンセプトが似ているものでは2011年のSPACE BALOON PROJECT(スペースバルーンプロジェクト)がある。スマホの画面にSNSから送られたメッセージをライブで表示しながら成層圏の入り口まで飛んでいく。根底にあるのは「作ったものが未来の人たちにも有益なものであってほしい」という思い。宇宙のプロジェクトについては「かつてバックミンスター・フラーが提唱した『宇宙船地球号』のように、宇宙から地球を眺めるのは今とても大事じゃないかと思い、やりがいを感じる」という。
今回の公開実験については「双方向通信の仕組みができて初めて番組を乗せてみたところ、かなり好評を頂いた。やってみて思ったのは、ISSが90分で地球を一周することがもっとちゃんと伝わるようにできないか。地球の上をこんなスピードで国境を越えて回っているものは他にない。今、ISSが飛んでいる場所の下(地球上)の人たちと何ができるか、それを意識できるようなものがつくれたらと思います」。それは面白そうだ!
今回はISSにいる宇宙飛行士が番組に登場することはかなわなかったが「2回目以降は宇宙にいる飛行士とのコラボができたらいい」とJAXA高田氏。「そもそも今回は技術実証で『双方向で通信できましたね』で十分だったのに、スカパー!やYouTubeで生放送するという思い切った内容にしたのは、民間ならではのスピード感でありチャレンジです。宇宙にあるものを最大限活用してアイデアで勝負し形として見せた。さらに進化させ新しい事業やサービス、価値を作ってほしい」
技術実証だったということは、失敗も想定していたのだろうか? 「それはもう(笑)」馬場氏が言うと、その場にいる皆が同意。「全部が初めてのことだったし、どこか一つ通信経路が切れたり作業ステップが滞ったりしたら、その先には進めない。見えない失敗もたくさんしています」
たとえ失敗しても、その過程を見せていこうと挑戦し、世界初の成功に導いたバスキュール×スカパーJSAT×JAXA。次の放送は11月に内容や放送局を発表する予定だ。今度はどんなチャレンジで宇宙を私たちに開いてくれるのだろうか。注目したい。