世界中から多くの才能が集まるアジア最大級のショートフィルムの祭典であり、アカデミー賞公認の国際映画祭として、毎年6月に開催されてきた「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア(以下、SSFF & ASIA)」。2020年は新型コロナウイルス感染拡大を受けて同フェスティバル史上初の延期となっていたが、感染防止対策を講じたうえで、9月16日に開幕を迎えた。
また、ソニーは、米国アカデミー賞短編部門へのノミネート選考対象となる「オフィシャルコンペティション」のスポンサーに就任。2021年のSSFF & ASIAでは「スマートフォン映画作品部門 supported by Sony」の新設も決まっている。その経緯について、映画祭を主催する俳優の別所哲也氏と、ソニーでブランドコミュニケーション部門を率いる冨田みどり氏に話を聞いた。
開催を模索する中、映画祭の本質を問い直す対話
――「SSFF & ASIA 2020」が、3カ月の延期を経て開催されることになりました。今のお気持ちをお聞かせください。
別所哲也氏(以下、別所):1999年の6月4日に僕がショートフィルムの祭典を始めて、2020年で22回目。これまで世界で、また日本で何が起きた年でも、6月に開催することは続けてきました。短い歴史ではありますが、その歴史の中で、今年は初めて中止になるかもしれないという思いに駆られた状態で6月を迎えました。
各国で映画祭が中止になったり、形を変えたりする姿を目の当たりにし、世界中のフィルムメーカー、クリエイターや映画祭の主催者と連絡を取り合いました。開催できないのではないかと思ったことは、一度や二度ではありません。ですが、「開催できない理由」ではなく「どうすればつないでいけるか」を考えることにしたのです。
さまざまな人とコミュニケーションを取ることによる収穫もたくさんありました。映画のお祭りの“本質”とはなんなのだろうか、そういったことをオンラインでクリエイターの皆さんと語り合う時間が生まれたのです。こんなに濃密なコミュニケーションを取って開幕を迎えるのは今年が初めてではないでしょうか。これまで、「毎年たくさんの応募作があり、生み出されたものを映画祭という装置の中で見せる」ことを繰り返してきましたが、延期によっていろいろ考えさせられました。
――従来のスタイルが通用しないことで、逆に本質が浮き彫りになってきたわけですね。
別所:はい。アカデミー賞(映画祭ではありませんが)や、ベルリンやカンヌに代表される国際的な映画祭がどういう変遷で歴史を重ねてきたのか。その映画祭が何を大切にし、祭りとしてどうあろうとしてきたのか。彼らも自問自答したと思いますし、僕たちも自問自答し、必死になって今回の形にたどり着きました。
――今回は初めてソニーがオフィシャルコンペティションをサポートすることになりましたが、その経緯を教えてください。
冨田みどり氏(以下、冨田):最初のきっかけは、2019年の8月末ごろに別所さんとお話しさせていただいたことです。当社の映像や撮影技術をご覧いただけるショールームへお越しになったときですね。
当社の存在意義(=パーパス)は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」。そこで、私たちが何をすれば世の中にもっと感動を生み出せるのかと考えたとき、世界にもっと多くのクリエイターが誕生し、活躍してもらうことが、大事なのではないかという結論に至りました。
そこで、2019年度から「Sony Creators Gate」という、小中学生から大人まで幅広い年代の方を対象に、クリエイティビティを刺激し育成するいくつかのプログラムをスタート。そのような経緯がありましたので、別所さんからSSFF & ASIAのことをうかがったときに、私たちの目指すものに近いと感じたんです。
――もともとクリエイティブ分野への取り組みを進めていらしたんですね。
冨田:はい。「Sony Creators Gate」は国内の活動から始めたので、これをグローバルに広げる意味でも、世界中のクリエイターが参加するSSFF & ASIAをサポートすることには、価値があると考えました。
それに、ショートフィルムは映画づくりにおいて入り口になりやすいもの。私たちは、すでに活躍中のクリエイターを支援するより、まだその前の段階にいる人たちにクリエイティブの世界に入ってきてもらいたいという思いで活動しているので、その点からも非常にマッチしました。
しかも、オフィシャルコンペティションの優秀賞には、次年度のアカデミー賞短編部門ノミネート候補作品への道が開けています。まさに登竜門ですね。実際に、20年ほど前にここで観客賞を獲得したジェイソン・ライトマン監督が、2021年公開の「ゴーストバスターズ・アフターライフ」という作品で監督を務めています。そういうクリエイターがどんどん増えていったらうれしいですね。