• 『千鳥のクセがスゴいネタGP』総合演出の名城ラリータ氏

特番の1回目が放送されたのは、今年5月30日。「数字が獲れていないときは、次の日の朝に(番組関係者や業界の人から)全く電話がかかってこないんですが、この番組もそうだったんです」と、世帯視聴率は振るわなかった。

しかし、時間が経つに連れて状況が変化。「昼前くらいから、キー特性(フジテレビの社内指標:13~49歳の個人視聴率)がすごく獲れてると言われ、FODの再生回数も良くて、狩野英孝さんが『大きな古時計』をクセが強く歌うというこの番組のシンボルのようなネタの違法動画がすごい数(※9月30日時点で1,600万回超)再生されていたんです」といい、従来の世帯視聴率とは違う形の反響が、2回目の特番(8月15日放送)、そして今回のレギュラー化につながった。

それでも、ゴールデンタイムでのレギュラー化に「単純にびっくりしました。フジテレビもすごいなと思いましたね」と驚きを隠せない。

今回のレギュラー化に加え、フジテレビでは大型コント特番『ただ今、コント中。』が放送され、TBSでは8時間にわたる生特番『お笑いの日2020』が放送されるなど、ここに来て“お笑い番組”が活況だ。背景には、各局でお笑い番組と親和性の高い「キー特性」や「ファミリーコア」(TBS:13~59歳)など、広告主のニーズが高い層をターゲットとして重視するようになった状況変化がある。

この傾向については、「いいことだと思います」と歓迎しつつ、「もう今は、視聴者が“お笑い番組”というジャンルで切り取って見ていないと考えているんです。おこがましい言い方をすれば『水曜日のダウンタウン』や『月曜から夜ふかし』は、“お笑い番組”というより、やんちゃな感じが受け入れられている。だから、コントやネタ番組が増えて機運が高まっていると考えるよりも、作ってる人や出てる人が『面白いので見てください』と本当に思えるものであれば、結果としてお笑いじゃなくでも何でもいいと思うんですよ」と、冷静に受け止めている様子。

「テレビはいろんな番組があっていろんな見え方ができるのがいいことだと思うので、“お笑い番組が増えてきたぞ”っていう感じを僕ら制作者が前面に出すと、時代遅れに感じられちゃうんじゃないか。僕らは僕らでレギュラーになっていろんな人に見てもらえる瞬間ができることを素直に喜べばいいかなと思います」と強調する。

一方で、『クセスゴ』が成立するにあたっては、最近の潮流に乗ったことが後押しになったとも認識。特に、「『有吉の壁』が7時台では難しいと思われていた中でも、人気のキャラクターを生んだり、視聴率も良かったり、YouTubeでも反響があったりと結果を出してくれたのが、一番大きかったですね。ありがたかったです」と感謝した。

■出演者と「心中するつもりで作らないと」

『全力!脱力タイムズ』や『冗談騎士』(BSフジ)に加え、今回の『千鳥のクセがスゴいネタGP』と、お笑い番組の担当が続くが、「好きなことができるのは、出演者との巡り合いの運がそうさせてくれたと思っています」という名城氏。

「お笑いをやりたいというより、出演者に合ったものを作りたいというのを、大事にしているんです。『脱力』では有田(哲平)さんに、『冗談騎士』は鈴木おさむさんに、そしてこの番組では千鳥さんにフィットしたものを提案したい。タレントさんと接する中で、信念とかすごさを間近で見てきているので、この人たちと心中するような気持ちで作らないとウソになりますし、逆に見てる人のせいにして『おもねってます』というような感じになるのも視聴者に対して非常に申し訳ないじゃないですか」と力説する。

さらに、「番組って、広報さんや美術さん、技術さん、営業さんなど、たくさんの方々が関わっているので、自分の思いも大事ですけど、それよりもシンプルに何が魅力的なのかを表現していきたい。いろんな人と出会って仕事をさせてもらった上で、それがディレクターとしての矜持になっている気がします」と、番組作りにかける思いを語ってくれた。

●名城ラリータ
1976年生まれ、沖縄県出身。日本大学芸術学部卒業後、00年フジクリエイティブコーポレーション(FCC)に入社。フジテレビのバラエティ制作センターに配属され、『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』などをへて、現在は『全力!脱力タイムズ』『冗談騎士』に加え、10月からレギュラー化される『千鳥のクセがスゴいネタGP』を担当。