電動化でも安全でも我が道をゆくボルボ
次に、急激な電動化の理由を探ってみたい。
わずか5年ほど前のボルボは、主力のコンパクトモデル「V40」をはじめ、セダンの「S」、ステーションワゴンの「V」、SUVの「XC」の全てで「D4」などのディーゼルエンジンを展開していて、実際に販売の7割近くをディーゼルモデルが占めていた。そんな同社が、例の「ディーゼルゲート」をきっかけに一気に電動化へと舵を切ったのだ。
ボルボの最新モデルを見ると、「XC60」「XC90」にもはやディーゼルモデルはなく、XC40については初めからディーゼルを日本に導入していなかった。「S60」「V60」も同様で、PHVやMHVに入れ替わっている。
ディーゼルエンジンは燃費の良さがひとつの持ち味だが、MHVでも燃費の改善は可能だという。今回の試乗では試すことができなかったが、MHVモデルでは高速道路を一定速度で走るような場合、4気筒のうち1番と4番のシリンダーが停止するCDA(シリンダー・デ・アクティベーション:気筒休止)という機能が作動する。2気筒での走行に切り替えることで、燃費を改善するという仕組みだ。ボルボスタッフによるドライブテストでは、気筒休止がフルに働くと、燃費は平均で17km/L、最高で20km/Lまで伸びたという報告がある。(試乗車のWLTCモード燃費は12.5km/L)。
こうなってくると、低速トルクがあって経済的といわれたディーゼルエンジンとの差は縮まり、逆に排気ガスやガラガラという騒音(その音がノスタルジックでいいという方はいるけれども)というディーゼルのデメリットが目立ってきてしまう。
欧州では、スウェーデンの環境大臣が「2030年までにエンジン車廃止」と発言、ドイツの連邦議会は「2030年までにエンジン車廃止」を採択している。英国では「2035年までのエンジン車廃止」を首相が宣言し、フランスは2040年までのエンジン車廃止を政府が発表済みだ。こんな状況の中で、ボルボは「全モデルを電動化させる最初のプレミアムブランド」を目指している。
宣言好き(?)のボルボは「2020年までに死亡事故ゼロを目指す」としていたが、残念ながら、こちらは達成できなかった。理由はスピード違反、飲酒、薬物使用だ。ボルボとしては、まず1つ目の理由に対処する方法として、最高速度を設定できる「ケアキー」を導入している。
今回の試乗車にもケアキーの用意があったので、試してみた。設定はモニター画面上で行う。システムからケアキーを選んで制限速度を選べば、そのクルマの最高速度を決めておくことができる。例えば家族で車を共有する場合は、メンバーの中に運転経験の浅い人や、高齢者が含まれることがある。そんな状況でも、ケアキーで速度制限を施したクルマを利用すれば、速度超過による事故の確率を減らすことができるという考え方だ。
クルマの性能を限定してしまうことについては、特に販売面で疑問視する声も多かったというのだが、「たとえ一部の顧客を失うとしても、最終的に人命を救うためには、自動車メーカーの権利と義務をめぐる議論の先駆者であり続けるべき」とボルボは答えている。「こうした考え方を、77億人(つまり、地球上の全人類)に分かってもらう必要はないんです。小さな会社らしく、500万人ほどに理解してもらえば、きちんと存続していけます」というのが、ボルボ・カー・ジャパン広報の言葉である。
北欧テイストで独自路線を突き進むボルボの考え方は、自動車業界のみならず、あらゆる場所で生き残りをかけて戦う小さな組織にも参考になるのではないだろうか。
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