四角くて武骨で頑丈で実用的な車を作っているというイメージを払拭し、洗練された北欧デザインと電動化で独自路線を突き進んでいるのが現在のボルボだ。同社が新境地に達することができた理由と小さな会社ならではの戦い方を「XC40」ハイブリッドモデルの試乗会で探った。
全車電動化に向けて
ボルボ・カー・ジャパンは今年8月25日、コンパクトSUVの「XC40」にプラグインハイブリッドモデル(PHEV)と48Vマイルドハイブリッドモデル(MHV)を導入し、パワートレインを一新した。これにより、「XC60」「XC90」を含むSUVの全車種から、内燃機関(ガソリンや軽油で動くエンジン)のみを搭載するモデルがなくなったことになる。年内には全ての国内販売モデルから内燃機関のみの車両をなくし、全車電動化への第1段階を完了させるそうだ。また、2021年にはボルボ初の電気自動車(BEV=バッテリー・エレクトリック・ビークル)を日本に導入する予定だという。
XC40は2.0リッター4気筒エンジンを積んでいたが、今回の刷新でパワートレインは新型2.0エンジン+48Vマイルドハイブリッドシステムの組み合わせに変わった。ベルトでクランクと結ばれたISGM(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モジュール)が回生ブレーキで発電した電力を48Vリチウムイオンバッテリー(24セル)に蓄電し、エンジンの始動や出力補助、制動に電力を使用するというのがハイブリッドの仕組みだ。
走り出すときにはモーターのアシストが働くので、車速の伸びがいい。アイドリングストップからの再始動時もISGMがスターターを兼ねるので、音や振動は抑えられている。これまでの「T4」よりも、ずっと上質なクルマに変身したのはすぐに分かった。
ワインディングを攻めるような場面では、ドライブモードをデフォルトの「Comfort」(日常の運転)から「Dynamic」(高性能)にしてやればいいのだが、通常のクルマであれば一等地にあるはずのドライモード選択ボタンは、センターコンソールの端の方に取り付けられている。そもそも、ステアリングを握りながらシフトを上げ下げできるパドルシフトも付いていないので、作り手からは「このクルマに過激な走りは似合いませんよ」といわれているような気がする。
それよりも、上質なレザーシートにゆったりと収まり、おしゃれな2トーンインテリアに包まれながら、オレフォス製のクリスタルシフトノブ(インスクリプションモデルに標準装備、オレフォスの食器はノーベル賞の晩餐会でも用いられる)を操作して、大型パノラマガラスサンルーフ(オプション)から見える青空を楽しみつつ、気持ちよく走るのがこのクルマには向いているのだ。
何がボルボを変えたのか
昔のボルボしか知らない人に今のXC40を見せたとしても、このクルマがボルボ車だとは気づくまい。デザインも違えばクルマのキャラクターも違うし、搭載している駆動装置も別物だ。何がボルボを変えたのだろうか。まずはデザインについて考えてみたい。
ボルボ・カー・ジャパンの広報によると、「240」などの四角いクルマを作っていた頃まで、ボルボのスタッフはスウェーデン人だけであったという。当時のスタッフの間には、なんとなく「我々は野暮ったいクルマを作っている」という空気感があったのだそうだ。。
そんなボルボに転機が訪れたのは2010年代前半のこと。2012年にはデザインのトップとしてドイツ人のトーマス・インゲンラート(元フォルクスワーゲン)が加入し、2013年にはベントレーデザインから英国人のロビン・ペイジが移籍してきたのだ。これにより、ボルボではクルマづくりに対する考え方が大きく変わった。
例えばインゲンラートは、ドイツ車とボルボのデザインについての考え方の違いを「靴」を使って説明する。サイズが違っても形は変わらない黒い革靴がドイツ車であるとすれば、ボルボでは大、中、小のクルマを作り分ける際、黒のデザインシューズ、茶のスウェードシューズ、白のスニーカーといった感じで、各モデルに独自のデザインを持たせようと考えるのだ。ロビン・ペイジは、北欧神話に登場する雷神「トール」が手にもつハンマーをモチーフにしたLEDヘッドライトを採用したり、自然の流木のようなウッドパネルを採用したりして、ボルボ車の北欧テイストを磨き上げていった。
外国人の目を通して自社のクルマを見ることにより、ボルボでは「スウェーデンのデザインは優れている」という意識が芽生え、育っていった。性能競争に血眼になることだけがクルマづくりの全てではない。そう気づいたのだ。