「道路から生じる環境負荷」が表面化する未来を見据えて
ここで、ZEVEXがクロカン四駆をベースとしたEVの製作になぜ乗り出したのか、いきさつを探ってみたい。
鈴木氏はもともと、四駆での“極限走破”をキーワードにオフロード競技会を開催、冒険に挑戦してきた「アイアン・バール・カップ実行委員会」という団体を立ち上げた人物。「アイアン・バール・カップ」は、四駆本来の悪路走破性を極限まで追求し、もし自走不可能な悪路ならばウインチ(電動モーターが内蔵されたリールでワイヤーを巻き上げ、車を手繰り寄せるための装置)などの道具を駆使したり、車をいったん分解して、人力で運んででも走破を目指したりする過激なスタイルで、四駆ブームの最中にあってもかなり異端だった。
そんな、一見するとエコの正反対に見える趣味に没頭してきた人物が、なぜ四駆をEV化するチャレンジを始めたのか?
「1990年代後半から2000年代初頭といえば、パジェロやランクルなどの大ヒットで始まった四駆ブームが過ぎ去り、厳しいディーゼル規制が施行されていった時代です。クロカン四駆が一気に斜陽カテゴリーになっていきました。それとタイミングが重なる1997年は、COP3において『京都議定書』が採択された年でもあります。ところが、クロカン四駆の利点は今も昔も『デコボコ道を走れる』という一点のみ。普段はあまり人の役に立つわけではないのに、重くて燃費が悪いのだから、存在意義が問われるようになったのは必然的な流れでした」
「プリウス」などのエコカーがヒットし、何においても“エコ”であることが良しとされるようになりつつあった時代でもある。ところが待てど暮らせど、自動車メーカーから本格四駆の量産エコカーが出る気配が一向にない。それならば、「自分で作るしかない」と鈴木氏は一念発起。コンバートEVを作る団体を立ち上げたというわけだ。ただ、実はこの経緯は、ストーリーの一部でしかない。鈴木氏がベース車にあえて“クロカン四駆”を選んだ理由はもっと壮大であった。
「『悪路を走れる』というクロカン四駆の才能が、100年後の『くるま社会』を救う切り札になると私は信じているんです。CO2の問題が解決した未来において、次に取り沙汰されるのは『道路から生じる環境負荷』の問題に違いない。そうなったとき、未舗装の道、あるいはありのままの地球の表面を走れる能力が必要になってくる。要は、地球環境に逆らわないクロカン四駆の移動スタイルが、実はサステイナブルであることをいずれ人類は知ることになると私はみているのです」
「ウェル・トゥ・ホイール」(走行時に排出されるCO2だけでなく、エネルギー源となる燃料の採取や電力の発電過程、車の製造工程も含めた全体のCO2排出量全体で環境性能を評価する考え方)という言葉が一般的になりつつある現在。しかし、「道路の存在」を問題にする声は今のところ聞こえてこない。将来的に、クルマからも発電所からもCO2が出なくなったとき、次に環境問題の矛先が向かうのは道路になるだろうと鈴木氏は予見しているのだ。
考えてみると、舗装路は自然の地形を切り拓き、石油からできたアスファルトを敷いて作られたもの。そこには莫大なエネルギーと資源が投入されている。もし、これをなくして自然の地形そのままを車が走れるようになれば、確かに地球環境へのダメージを大幅に軽減できるだろう。飛躍的な考えに聞こえるかもしれないが、人類が他の星に移住を始めるような遠い将来に、どんなことが社会問題になっているかは分からない。いつか来るその日に備えんがためのクロカン四駆をベースとしたEVの製作であり、「ゼロ・エミッション走行による南極点到達」という目標なのである。
彼らは目標に向けて、トレーニングとマシンの改良を淀みなく続けてきた。国内での寒冷地テストはもとより、2005年にはSJ2001号とは違うEVジムニーで厳冬期に氷結する間宮海峡(樺太とユーラシア大陸の間にある海峡)の横断にチャレンジ。雪原の真ん中で荷物の搬送を依頼していた業者に裏切られ、法外な追加料金を請求されるというトラブルと悪天候が重なって横断達成とはならなかったが、氷点下30度を下回る環境下でも風力発電機や自作EVが問題なく稼働し、ゼロ・エミッションで走行できることは確認できた。その前後をあわせ、総計9回にわたってロシアの地へ現地調査に訪れている。
現在は南極アタックに向けて、南米チリから南極大陸の基地までマシンと人材を輸送機で飛ばしている会社と交渉している最中だ。最大の問題は資金面だが、「ZEVEX発足当初に想定した金額よりは少なくて済みそう」とのこと。それでも最低で数千万円はかかるので、スポンサー探しが今後の活動に向けて最大の課題となっている。
もしも、ゼロ・エミッションの電気だけをエネルギー源とするEV四駆で南極点への到達に成功したなら、世界初の偉業となる。四駆の存在意義、いや、車社会の100年後を賭けた、小さなチームの壮大なチャレンジ。応援せずにはいられない!