これからは「役割再定義時代」

松本: もう1つ面白いなと思ったのは、価値観をもとに「スキル型」「意志型」「チーム型」「バランス型」といった4つの行動タイプに分けている点です。この4つは、組織内での機能で分かれているので、多くのビジネスパーソンに当てはまりますし、その人たちの立ち位置さえ把握できれば、すぐにビジネスで生かすことができるのがいいですよね。

北野: まさに、そうなんです。私も、エニアグラムのような性格診断を受けると、決まって「感性がするどい」となるのですが、結局、どう生かせばいいのか具体的なアドバイスがないので、いつも困ってしまいます。今さらアーティストになっても、メシは食えないですから(笑)。だから本書では、タイプ別に、どうすれば人のためになって、感謝されるかというビジネスへの接着点は意識して作りました。

  • 性格診断はアドバイスが無いので困ると話す北野さん

松本: 北野さんは、この4つのうちどれが一番近いですか。

北野: 経営者としては「スキル型」か「バランス型」で、クリエイターとしては「意志型」です。経営者としてはすごく穏やかで、メンバーの育成に取り組むことが、心から幸せだなと思えるタイプです。一方、クリエイターとしてはピクサーのような組織を作りたいという目標を持っているので、要求度合いも非常に高いと思います。

松本: それは昔からだったのでしょうか。

北野: クリエイターの「意志型」は昔から変わらないと思いますけど、経営者は、経営のフェーズが変わると、求められるものも変わるので、環境の変化に合わせて、成長してきたと思います。

松本: そうですよね。従来のやり方だけでは、新たなステージに進んだ時に通用しないということは、よく起こります。だからこそ、これまでとは違う機能を身に付ける必要がある。本書では、新たな機能を修得できるように、いくつかの「問い」を与えてくれるのも特長ですよね。人は問いによって成長できるので。

北野: 松本さんがおっしゃっている「機能」は、私は「役割」と解釈しています。人が幸せに生きるためには、「居場所」と「役割」がいつも必要だなと思っていて、それを、最近強く感じたのは、自分の父親に対してです。

父親は去年、嘱託社員を終えて退職を迎えました。20代までSEとして活躍していたのですが、30代の時に子会社のエンジニア部門に転籍して、最後はメインストリームではない内部監査室へ異動になりました。でも、ここ2〜3年、長いサラリーマン人生の中で、一番楽しく、幸せな時間を過ごせたようです。その理由を尋ねると、チームのメンバーからすごく頼りにされ、必要とされてきたからだと言っていました。

出世レースでは思うような結果が残せなかったかもしれませんが、たどり着いた場所で必要とされ、求められるということは、やっぱりその人にとってものすごく幸せなことだと話を聞いて痛感しました。

松本: 「役割」は、やはり年齡とともに変わっていきますからね。

北野: 私は、これからは「役割再定義時代」だと思います。役割を再定義し続けることが非常に重要なのですが、誰もそれを教えてくれません。それによって自分自身で役割を認識しきれないがために、キャリアをダメにしてしまう人がたくさんいると思います。そうならないように、この本で今一度、役割について考えるきっかけにしてほしいですね。

松本: 20代や30代の中には、これまで自分自身の生き方や役割について、深く考えてこなかった人も多いと思います。初めての就活で、「どんなことがしたいのか」「どんなふうに働いていきたいのか」ということを問われ、「ちょっと待てよ」と思ったのが現実ではないでしょうか。

与えられた答えを選ぶのではなく、自らで考え、答えを見つけていく。生き方の選択肢が無数にある今日、この本は、絞るための問いを与えてくれるので、答えを見出しやすいと思います。

次回は、働く上で大きな意味をもつ「感性」をテーマにした話が展開します。お楽しみに。

取材協力:北野唯我(きたの・ゆいが)

兵庫県出身。就職氷河期に博報堂へ入社。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画、現在、取締役。著書に『転職の思考法』『オープネス』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)、『分断を生むエジソン』(講談社)がある。