『これからの生き方。』(世界文化社)を上梓したベストセラー作家兼実業家の北野唯我さんと、人事戦略コンサルタントの松本利明さん、HR領域で活躍する2人が語り合います。2回に分けてお届けする前編のテーマは、「組織の中で、自分を生かすために必要なものについて」です。

  • (右)ベストセラー作家兼実業家の北野唯我さん、人事戦略コンサルタントの松本利明さん

多くの人は、価値観を言語化できない

松本: 今回の対談は楽しみにしていました。北野さんには、同じHR領域で活躍している者として、いくつか聞いてみたいことがあって。『これからの生き方。』は、新しい視点で自分を見つめ直せる本だと感じたのですが、なぜ、今「生き方」というテーマで書こうと思われたのですか?

北野: 新型コロナウイルスの影響もありますが、そもそも生きるのが大変な時代になっているなと感じていて。それこそ、寿命が長くなっていく中で、自分たちよりも若くて、優秀な人がどんどん出てきていますし、さらにはSNSの発達により、いろんな人と比較することが容易になり、焦りなども必要以上に生まれやすくなってきていると思います。

また、企業が進めている働き方改革も、自分の生き方がある程度決まっていないと、本当の意味で働き方を変えるのも難しい−−−そんなふうに生きづらく感じてしまう一番の理由は、やはり「資本主義」という厳しい世界の中で、私たちが生きていかなければならないからだと思います。

自由気ままに過ごし、たくさんのお金を稼げるなら苦労はありません。しかし、自分の大切にしたいものを守りながら生きていくには、知恵や戦略が必要で、その一助となるための本を作りたいと思ったのが、きっかけだと北野さんは話します。

松本: それこそ、自分の生き方を見失っている人は昔からいたように思います。ただ、昔は「大企業に就職すれば安心だ」とか、「社内にロールモデルがいる」といった成功パターンが明確で、その通りやっていれば、生き方について深く考えなくても、人生を乗り切ることができた。それが、今との大きな違いですね。

北野: そうなんです。正解が分からない今の時代は、自分の生き方が定まらないと本当につらいと思います。実際、「生きるのが大変だ」と感じているタイプは、大きく2つに分かれます。

1つは、自己の価値観を言語化できない人。もう1つは、自分の価値観は分かっていても、一緒に働く人や、一緒に暮らす家族の価値観を理解できていない人です。

本書の漫画編※の登場人物である編集者が上司や同僚らと衝突を繰り返すのは、自分と相手が大事にしている価値観の違いを理解していないのが、要因になっています。

※編集部注:『これからの生き方。』は漫画編、ワーク編、独白編の三部構成となります

  • 今は生き方が定まらないと本当につらい、と言う北野さん

松本: なるほど。北野さんも、自身の価値観を見失ったりした時はあるんですか?

北野: それこそ、20代前半は周りとぶつかりまくっていました。

松本: 北野さんもそういう頃があったんですね。私は、この本を読んで、少し違った視点で価値観の重要性を捉えました。それは、従来の書籍であれば、「資質」のような不変的なものにフォーカスして、その人を表現することが多かった。けれど、本書は、価値観という変化できるもので表現しているのが「新しい」と思いました。

まず14の価値観(※)の中から、自分に合った価値観を選ぶことで、自分自身の生き方を明確にすることができます。※アメリカの心理学者、ドナルド・E・スーパー氏が提唱した「14の労働価値」をベースに北野さんがアレンジしたもの

  • 14の価値観 提供:世界文化社

その上で、例えば、20代の時は、「危険性、冒険性」や「能力の活用」を重視して自分自身を磨いてきたが、30代は、「愛他性」や「社会的交流性」に重きを置き、自分だけでなく周りを尊重して結果を出すスタイルに変えることができます。このように、価値観をベースに自分自身をレベルアップできるのが今までにない視点だと思いました。

北野: なるほど、その視点は面白いです。ご指摘の通り、人が働く理由は必ずしも1つだけではなく、複数の価値観から構成されていることの方が多いです。だから、自分が持っているすべての価値観を1つの仕事で満たさなくてもよいと、本書ではアドバイスしています。

例えば、私の場合は、経営者としては「達成」や「ライフスタイル」を大事にしていますが、作家としては「創造性」や「美的追求」を強く求めています。このように価値観の生かし方を構造的に説明した本は、これまであまりなかったのではないでしょうか。

松本 副業の本などもそうですよね。どうやってお金を稼げばいいのかといったノウハウだけで展開されているケースが多く、どのようにして自分に合った副業を見つけていけばいいのか、そんな落とし所が書かれている本って、あまり見たことがありません。そういう意味では、副業を考えているビジネスパーソンにとっても、役立ちそうですね。

北野: また、どの価値観が自分に当てはまるのかが、なかなかイメージできない読者も多いと思います。そんな人のために、本書の漫画編では、価値観の異なるタイプが8人登場させています。

松本: 比較しながら、構造を理解できますし、自分に合ったタイプは、読者も重ね合わせやすいですよね。