この原作に惹かれ、長年にわたる交渉を経て日本版の制作にこぎつけた後藤P。「主要人物のキャラクターがとても魅力的なんです。1つ1つの案件を通じて人間関係にどんどんうねりができて、変化していく。弁護士モノのドラマなんですけど、案件を解決する爽快感というところではなく、あえて人間ドラマのほうに重きを置いているところが面白いと感じました」と、その魅力を語る。
ただ、アメリカ版は、序盤で案件が持ち上がると、その後はどのような手段を講じているのかの過程を見せず、終盤で突如解決するというフォーマットで描くパターンが多い。これを導入すると、日本の視聴者には難解で分かりづらく、感情移入しにくいという懸念があった。
『SUITS/スーツ2』が議題に上がった9月9日のフジテレビ放送番組審議会(※有識者が番組について意見を交わす会議)でも、「物語の流れも人間関係も飲み込めませんでした」という意見が出た。これを踏まえ、後藤Pは「これまでの10話までの見せ方と、(21日放送の)11話以降の見せ方を、変えていきます。『この案件はこういう過程を経て解決しました』という部分を、より丁寧に描いていきたいと思っています」と説明。
この番組審議会では、現役弁護士の委員から「弁護士の“法律的な紛争を巡る戦い”はここに描かれているよりももっと泥臭く死にもの狂いです」という声も上がっていたが、後藤Pは「今まではそうした感じを一切描いていませんでしたが、泥臭く汗を流して頑張るというニュアンスを、『SUITS』の世界観を守れる範囲でやっていきたいと思います」と明かした。
■撮影終了シーンも早速変更
このために、すでに撮影が終了し、編集に着手した場面でも、「変えたほうがもっと分かりやすくなるセリフを、役者さんにお願いして声だけ録らせてもらい、過去の回想の画を持ってくるという方法でつないだりしています」と新たな撮影シーンを待たず、迅速に変更作業を進めている。
「通常ではよっぽどのことがなければ行わない、ある意味リテイク(撮り直し)ですね」と言うように、ここまで柔軟に対応するのは異例だ。そこには、「シーズン2が始まって、視聴者の皆さんのいろんなご意見を感じ取って、徐々にアジャストしてきたつもりではあったのですが、番審の委員の皆さんの意見がすごく心に響いたので、もっと大胆に変えたほうがいいなと思いました」との考えがあるという。
とはいえ、アメリカの原作がある以上、その世界観を壊すことはできない。リメイクの交渉に立っていた後藤Pは「シーズン1のときに、向こうが『これは守ってほしい』ということと、僕らとして『こういう風にしたい』ことをいろいろ議論して、すり合わせを何日もかけてやったので、その信頼関係の中で1つ1つを判断して作業しています。だから、今回の変更は相当プレッシャーを感じてやっています」と決意を伺わせた。
■中島裕翔のドロドロ恋模様「大きな軸に」
それが反映される11話から、いよいよ最終章に突入する。前回の10話は、真琴(新木優子)とキスをした大輔がその夜、幼なじみで既婚者の怜(吉谷彩子)と関係を持ってしまい、そこに真琴が訪ねて来てしまうという衝撃の場面で幕を下ろしたが、「このドロドロした恋愛模様は、最終話への大きな軸になります。アメリカのシーズン2は、そこが投げっぱなしで終わってしまうのですが、かなり壮大な伏線を敷いてきましたので、ちゃんと着地点をお見せします」と予告。
また、大輔が弁護士資格を持っていないという事実も「1つのキーワードになっていきますので、大輔がますます目立っていく展開になっていきます」と話す。
その上で、「11話以降は、もともとの原作でも小難しさや分かりづらさがなくなって見やすいストーリーになっていますので、今までご覧になってなかった視聴者の方も、1話完結モノとして楽しめるよう、より意識してラストにつなげていきたいと思います」と意気込みを語っている。
●後藤博幸
1968年生まれ、新潟県出身。早稲田大学卒業後、93年にフジテレビジョン入社。技術局に配属後、ドラマ制作に異動し、99年に『ほんとにあった怖い話』で初プロデュース。その後は『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』『CHANGE』『任侠ヘルパー』『5→9~私に恋したお坊さん~』、そして『SUITS/スーツ』シリーズなどをプロデュースしている。