池井戸氏と言えば、大ベストセラー作家である。出版する作品への注目度は高い。小説家としてデビュー以来、スタンスは変わっていないというが「チェック項目は非常に増えた」と変化を述べる。
「小学生から80代のご老人まで広い読者の方に読んでいただいているので、とにかく読みやすさが大切だと考えています。ルビをふるのはもちろん、分かりやすく、ストーリーがサッと頭に入ってくる構成が必要ではないかと。それでいてしっかり読みどころがなくてはならない。そのために自分に課しているチェック項目は非常に多いです」。
どんなに書き進めても、自身が納得いかなければボツにする。
「実はこの作品も、半沢の親友である(ドラマでは及川光博が演じる)渡真利忍を主人公にしたスピンオフとして書いていたんです。150枚ぐらい書いたのですが、どうもしっくりこなかったので、残念ながらボツにしました。半沢を主人公にして、大幅に書き直したのが今回の作品なんです」と裏話を披露する。
いまとは違ったやや青臭い半沢が、自身の正義のために突き進む姿は、非常に清々しい。一方で、『銀翼のイカロス』以降の半沢の姿も見たいのがファンの願いだろう。「もちろん書いていくつもりはあります。でもその気持ちと、なにを描くのかは別問題。いまは、その都度自分のなかで興味が持てそうなテーマを探している段階ですね」と未来に思いを馳せる。
まずは『アルルカンと道化師』。池井戸氏は「ミステリー仕立ての物語になっていますが、これまでのシリーズ同様、巨大な敵と戦ってやり込めるお約束もあります」と見どころを語ってくれた。
1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。‘98年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー、2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、2011年『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な著書に「半沢直樹」シリーズ、「下町ロケット」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『空飛ぶタイヤ』『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『陸王』『民王』『アキラとあきら』『ノーサイド・ゲーム』などがある。最新作は9月17日刊行予定の単行本『半沢直樹 アルルカンと道化師』。
池井戸潤による企業を舞台にした痛快エンタテインメント小説。主人公の半沢直樹が銀行内外の敵と戦い、数々の不正を暴く。『オレたちバブル入行組』(2004)、『オレたち花のバブル組』(2008)、『ロスジェネの逆襲』(2012)、『銀翼のイカロス』(2014)のシリーズ4冊は、メインタイトルを『半沢直樹』と改題の上、講談社文庫より刊行された。そして今年9月17日にシリーズ最新作『半沢直樹 アルルカンと道化師』を刊行。最新作はシリーズ第1作『オレたちバブル入行組』の前日譚となる。
左から『半沢直樹 アルルカンと道化師』(9月17日発売)、『半沢直樹 ロスジェネの逆襲』、『半沢直樹 銀翼のイカロス』