7年ぶりのドラマ化で大きな話題になっているTBS系日曜劇場『半沢直樹』。池井戸潤氏による『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』を題材にした新シリーズは、主人公・半沢直樹が巨大な敵に挑む姿が、多くの人々の共感を得ている。ところが、「半沢直樹」原作シリーズ待望の最新作『アルルカンと道化師』は、2004年に刊行されたシリーズ第一作『オレたちバブル入行組』の前日譚となる話だ。なぜ新作は半沢直樹の原点となる地点に立ち戻ったのか――。池井戸氏に話を聞いた。
現在、世間の大きな注目を集めているドラマ『半沢直樹』では、堺雅人演じる主人公・半沢直樹が、東京中央銀行から出向した東京セントラル証券での活躍と、返り咲いた銀行の花形と言われている営業第二部次長として、巨大な敵と立ち向かう姿が描かれている。
そんななか、池井戸氏は新作として、半沢が大阪西支店の融資課長として奮闘する『オレたちバブル入行組』の前日譚を描いた。「『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』とで話が大きくなりすぎてしまったので、本来の「半沢直樹」像である等身大の銀行員の話に戻したかったんです。『銀翼のイカロス』では、半沢は本店の第二営業部の次長という立場になっているんですが、そのまま続編を書くと、否が応にもさらに話が大きくなってしまうので」と説明する。
「アルルカンと道化師」では、大阪西支店の融資課長である半沢が、美術系出版社の老舗に持ち掛けられた大手企業による買収案件に隠された策略に抵抗していく姿が描かれる。
物語のキーとなるのがコンテンポラリー・アートだ。池井戸氏はこの題材について、「ある編集者が画集をくださって、アンドレ・ドランの『アルルカンとピエロ』という絵が目に留まって。以前石丸幹二さんと山田孝之さん主演の『ペテン師と詐欺師』というコメディ・ミュージカルに行ったことがあり、タイトルの付け方がいいなと思っていたんですが、この絵を見たとき、『同じようなタイトルのミステリーが書けそうだ』と直感的に感じたんです」という閃きがあったという。
池井戸氏の作品は、これまでにも何作も映画化やドラマ化がされてきたが、物語を書く際、映像化というのは意識しているのだろうか――。「映像化されるかもしれないという気持ちはありますが、それを意識していると自由に書けないので、基本的には気にしていません」と明瞭に答える。
一方で、作品の注目度が集まれば集まるほど、自身のなかでのチェック項目は増えていくという。「映像化されるかどうか、というよりも、自分で納得できるかどうかが重要。『これなら世に出しても大丈夫だ』と思えるところまで引き上げられたら成功ですよね。その先、作品が売れるかどうかは分からない。なにより自分のなかで納得することが一番大切なんです」。