■4体の猛獣と映画が作れた

――さきほども仰ってましたが、次の『ヤクザと家族』も気になります。

『ヤクザ~』と『宇宙~』は、陰と陽じゃないですけど、伝えたいテーマは変わらないのかもしれないですね。両作品ともに家族というものをどういう目線から描くかということで、違う作品になるのかなと。『ヤクザ~』に関しては、社会からこぼれ落ちてしまった人に対する問題提起ですかね。レールに乗れなかった人にとって、厳しい時代になってることを描きたいということが、僕とプロデューサーの河村(光庸)さんが掲げているテーマです。

――タイトルと「こぼれおちた人」ということから、『ヤクザと憲法』も思い浮かべました。

近いと思います。あの作品はドキュメンタリーでしたけど。数年前に、フランス人の監督の撮った『ヤング・ヤクザ』というドキュメンタリーもあって、社会的なドキュメンタリーは多いけれど、実写映画では、こうしたテーマのものはなかったので、エンターテインメントとして、誰も見たことのないヤクザ映画をやろうぜというたくらみがあります。でも、『宇宙~』も『ヤクザ~』も、どちらも楽しんでもらえたらと。それに、『宇宙~』では清原果耶ちゃんと桃井かおりさん、『ヤクザ〜』では綾野剛さんと舘ひろしさんという、4体の猛獣と映画が作れましたからね(笑)。

――清原さんにも、そういった部分があるんですか?

果耶ちゃんは『デイアンドナイト』で出会った素晴らしい女優で、達観しているし、演技に対しても誠実で嘘が通用しないし、僕らの本気を受け取ってくれる。『デイアンドナイト』は果耶ちゃんじゃないと成立しなかったと思います。今回の『宇宙~』も、果耶ちゃんのキャスティングが決まってから、他のキャスティングも次々と決まって、クランクインできた。でも実は、つばめの役はずっと決まらなくて。僕も当初は果耶ちゃんのイメージはなかったんですけど、プロデューサーの前田さんが『透明なゆりかご』を見て、この役は果耶ちゃんがいいんじゃないかという話になって、完成にたどり着いたんですね。

――当初は清原さんのイメージではなかったのはどういうところでそう思われたんですか?

果耶ちゃんが『デイアンドナイト』で演じたのが、負の感情が大きくて、孤独な役だったので、『宇宙~』のつばめのイメージには結びついてなかったんです。でも、実際に脚本を果耶ちゃんをイメージして読むと、ぴったりきたんですよね。

――『宇宙~』では、伊藤健太郎さんの役もいいですよね。

伊藤くんの役ははまり役でしたね。自然体で飾らないところが魅力で、「お隣さん加減」がいいんですよね。中学生のときの隣の大学生って、そのときはかっこいいけど、大人になったらそこまで好きにならないかもしれない。そういう感じのいい塩梅で演じてくれてます。伊藤くん自身も無駄なエゴがなくて、淡々と飄々と演出を受けてくれて、それでいて内なるものも持っているし。それと、伊藤くんは、撮影のとき以外全部寝てるんですよ(笑)。「俺、どこでも寝れるんですよ」って。それがかわいかったです(笑)。

――そうだったんですね(笑)。清原さんに限らず、藤井監督の作品では、『青の帰り道』の横浜流星さんや、今回の醍醐虎汰朗さんなど、若手俳優が負の感情を演じることも多いですよね。若手俳優さんは、なかなかそういう役を演じられる機会がなさそうなので、すごく印象的です。

重い役や業を背負った役を演じられる俳優さんって、もしかしたらそんなに多くはないのかもしれないですね。若手の俳優さんには、いい出会い方をさせてもらったなと思います。

――『青の帰り道』は、横浜さんの作品の中でも、すごく異色で、いい表情を見せているなと思いました。

いいですよね。監督をちゃんと見てくれるというか、こっちがやりたいことを信じてくれる。演技の上で追い込んでも応えてくれるし。最近は仲良くなりすぎて「みっちー」なんて呼ばれてますけど、本当に大事なファミリーだし、僕の20代がこめられた役をまたお願いしたいですね。

――やっぱり、登場人物に自分を投影することは多いんですか?

自分の目線をどこに置くかだと思うんですね。『宇宙~』だと、醍醐くんが演じた笹川に置いていたし、『ヤクザと家族』の場合は、綾野剛さんが演じた山本賢治、『新聞記者』では松坂桃李さんが演じた杉原拓海に感情移入しながら撮っていました。