前世代Ryzenを圧倒する性能! さらに消費電力も低い

RenoirというかZen 2アーキテクチャベースのCPUが優秀ということは、これまで本誌でも散々テスト結果が示されているわけだが、ではCPU単体の話ではなく、実際にそれがPC製品に搭載されて現実的なシステム単位となったとき、どのくらいパフォーマンスに違いが出るのか見てみたい、というが本稿の主旨となる。というわけで、検証のためにHP ENVY x360 15(AMD)でいくつかベンチマークテストを行ってみた。

比較対象としてノートパソコン「DELL Inspiron 14 5000 (5485)」を用意している。こちらは一世代前のAMD Ryzen 5 3500Uを搭載している。ちなみにこの5485は筆者が普段使っている私物なのだが、個体差なのか仕様なのか、この5485の放熱性は今一つよろしくなく、大きな負荷をかけると熱が抜けにくくベンチマーク結果がぶれやすかった。なお、この5485はメモリ16GB、ストレージ256GB+1TBにカスタマイズされているが、おそらくベンチマークに影響するのはメインメモリだけだろう。

テストでは、バッテリー稼働時間の測定以外はすべて、電源に接続した状態にてパフォーマンス設定を最大にして測定しており、バッテリー稼働時間に関してはパフォーマンス設定を上から2つ下げた「より良いバッテリー」設定で行っている。各ベンチマークテストはブレがある程度少なくなるまで取ってから平均値を出している(有効桁未満は切り捨て)。以下、「HP ENVY x360 15(AMD)」を「ENVY」、「DELL Inspiron 14 5000 (5485)」を「5485」と略記する。

  • Cinebench R20で、主に浮動小数点演算のCPU性能を測定する

  • PCMark 10 Extendedの結果。実使用環境を想定したテストシナリオでの結果

  • Direct X12環境でのテスト。さすがに内蔵グラフィックスでは厳しいテストなので、フレームレートは低め

  • Direct X11環境でのテスト。これも内蔵グラフィックスでは重いが、Ryzen 7 4700Uならばそれなりのフレームレートがでている

  • Direct X11環境でのライトテスト。Ryzen 7 4700Uならばサクサク動くことがわかる

評価対象がCPUのランク的にも下の製品とは言え、世代間の差は圧巻だ。今年AMDは、2014年当時に掲げた「2020年までにエネルギー効率を25倍に高める」という25x20を達成したと宣言していた。上位のモバイル用プロセッサ「AMD Ryzen 7 4800H」が2014年の標準的な製品よりも31.7倍のエネルギー効率を実現し目標をクリアしたと説明していたが、その立役者となったのがモバイル用の開発コードネーム「Renoir」ことAMD Ryzen 4000シリーズのベースとなったZen 2アーキテクチャだ。

モバイル向けのAMD Ryzen 3000シリーズのベースとなったZen+アーキテクチャ(開発コードネーム「Picasso」)から大きく性能が上がり、さらに半導体の製造プロセスルールも12nmプロセスから7nmプロセスへと一気に微細化した。Intelで言うTick(プロセスルールの変更)とTock(設計を大きく変更して性能を向上)の両方を行ったのがモバイル用のRyzen 4000シリーズと言える。

今回の両システムが搭載しているRyzen 5 3500U、Ryzen 7 4700U共に8スレッドだが、4700Uは物理コアが8コアな分、全開性能を出しやすいというのも効いているだろう(3500Uは4コア8スレッド)。

また、ENVYの方がベンチマーク結果のムラが少なかったので、システムの冷却が効果的に行われて事がわかる。ただし、ENVYでも静かな部屋でベンチマークを行うと少々甲高いファンの音が聞こえるが、冷却性能と引き換えと言う事を考えると致し方ない。

GPU性能もかなり向上している。Ryzen 5 3500Uはグラフィクスコアが8基あるが、GPUの動作周波数は1200Mhz、メモリクロックは2400Mhzだ。対してRyzen 7 4700UではGPUの基本アーキテクチャは「改良型」とは言いつつも大きくは変わらず、グラフィックスコア数も7基に減っている反面、動作周波数は1600Mhz、メモリクロックは2666Mhzと引き上げており、これが性能差の要因となっているようだ。Ryzen 7 4700UのGPUは内蔵グラフィックスとしては十分な性能で、これ以上を求めるならば外付けグラフィックスが必要となる水準だろう。

ENVYは15インチモデルなのでバッテリーサイズも51Whと21%大きくなっているが、パネルサイズが大きい分、液晶パネルの消費電力も上がっているハズだ。それにもかかわらず、電池の持ちはPCmark10のModern Office比でほぼ8割増し。これも先に書いたZen 2アーキテクチャの効果は大きいと見られる。

Ryzen 5 3500Uの基本クロックは2.1GHzで、Ryzen 7 4700Uの基本クロックは2.0GHzでむしろ低クロックだが、ブースト時の最大クロックはそれぞれ3.7Ghz、4.1Ghzとブーストが効いたメリハリのある設計になっている。今回バッテリーのテストはテストシナリオにアイドル時間の測定が多い「Modern Office」で計測しており、この辺りが影響していると思われる。