一方で、新シリーズでは前シリーズとは変化している部分もあるという。
「現場での化学反応が前回よりも大きいのではと感じています。つまりアドリブですね。脚本は一応確認させてもらっているのですが、オンエアを観ると全然違うセリフがガンガン出てくる。いま話題になっている『施されたら~』とか『詫びろ、詫びろ、詫びろ』、『お前の負け―』、『お・し・ま・い・death』などは脚本にはなかったと思います」。
現場で生まれたものが、視聴者の心に突き刺さり、大きな話題になる。原作からの改編も、ドラマならではのもの、として楽しめるのが映像化の魅力かもしれない。「ドラマはテレビ局のものであり、原作者は関係ない。もちろん、ドラマがヒットすると、原作も売れるので、そういう意味では関係者ですが、僕も一視聴者として楽しんでいます」とドラマへの距離感を語った池井戸氏。
ドラマ化で印象的だったのは、香川照之演じる大和田。彼は原作の『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』共に登場しない。「プロデューサーの伊與田(英徳)さんや福澤さんがいろいろなアイデアを出し、それを脚本に落とし込む。大和田の登場など僕にもいろいろ相談はありますが、基本的にはお任せしています。大切なのは『半沢直樹』の世界観を壊さないこと。しっかりと世界観のなかでやっていれば、多少のことは反対しません」。
「やる以上はヒットしてもらいたいですが、こればっかりはやってみないと分からない」と池井戸氏は述べていたが、「『半沢直樹』というシリーズは、僕にとって『下町ロケット』シリーズと共に中心にある作品」と思い入れは強い。これからドラマでは、巨大な敵である政府と対峙することになる半沢。
コロナ禍のいまだからこそ、忖度なく正義に忠実に戦いを挑む半沢に、大きな勇気をもらう視聴者は多いのではないだろうか。
1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。‘98年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー、2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、2011年『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な著書に「半沢直樹」シリーズ、「下町ロケット」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『空飛ぶタイヤ』『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『陸王』『民王』『アキラとあきら』『ノーサイド・ゲーム』などがある。最新作は9月17日刊行予定の単行本『半沢直樹 アルルカンと道化師』。
池井戸潤による企業を舞台にした痛快エンタテインメント小説。主人公の半沢直樹が銀行内外の敵と戦い、数々の不正を暴く。『オレたちバブル入行組』(2004)、『オレたち花のバブル組』(2008)、『ロスジェネの逆襲』(2012)、『銀翼のイカロス』(2014)のシリーズ4冊は、メインタイトルを『半沢直樹』と改題の上、講談社文庫より刊行された。そして今年9月17日にシリーズ最新作『半沢直樹 アルルカンと道化師』を刊行。最新作はシリーズ第1作『オレたちバブル入行組』の前日譚となる。
左から『半沢直樹 アルルカンと道化師』(9月17日発売)、『半沢直樹 ロスジェネの逆襲』、『半沢直樹 銀翼のイカロス』