フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)では、就職支援サービス「ヤンキーインターン」で人生を変えたいと上京した中卒の若者たちを追った『最終学歴は中卒だけど… ~ボクの働く場所~』を、30日に放送する。取材したのは「高学歴になりたかった」と、なんと3つの有名大学に通った31歳の島越翔平ディレクター(テレビマンユニオン)だ。

今回がドキュメンタリー番組のディレクターデビューとなった島越Dは、半年間の密着で彼らに向き合い、何を感じたのか――。

  • 「ヤンキーインターン」の参加者(左/(C)フジテレビ)と島越翔平ディレクター

    「ヤンキーインターン」の参加者(左/(C)フジテレビ)と島越翔平ディレクター

■矢沢永吉『成りあがり』のイメージ

「大阪出身で『大阪は十分都会だし、世の中分かってるぜ!』なんて思ってたんですけど、いざ上京して渋谷に来てみたら全然違くて、『すごいな~』と衝撃を受けたんです。そこから、地方から来た子が東京で住む初日に、どんな顔をするのかを撮るドキュメンタリーができたらなと、4~5年前から思っていました」という島越D(以下、同)。そんな中、「上京 若者」でネット検索して見つけたのが、「ヤンキーインターン」だ。

東京・原宿にあるベンチャー企業が主催するこの再教育プログラムは、地方の中卒・高卒者を対象に、食・住・職を無償で提供し、企業への就職を支援するもの。この条件を見て、「18歳で東京に行くという選択をするのって、芸能人とかじゃない限り、進学以外にないなと思ったんです。そんな子たちが実際に東京に来たら、どんなことを考えて、どんな挫折を経験するのかと思い、企画書を出しました」と、制作の経緯を明かす。

『ザ・ノンフィクション』で取り上げる中卒の就職支援…さらに「ヤンキーインターン」という名称から、落ちこぼれたちの成長物語を想像してしまうが、実態は大きく異なる。

「みんなめちゃくちゃ野心があるんです。僕らが若い頃は、『大企業に行きたい』とか『公務員になりたい』という人が多かったんですけど、彼らには『起業したい』という“ベンチャードリーム”がはっきりとあります。みんな前澤友作さんが好きで、本もすごく読んでいて、昔の矢沢永吉さんの『成りあがり』のイメージ。仲間たちとバンドじゃなくて、ベンチャー企業を作って成り上がっていきたいという熱さを感じました」

「ヤンキーインターン」が立ち上がった当時は、文字通りいわゆる“ヤンキー”を主に受け入れていたそうだが、その存在が知られるにつれ、能力や意欲がありながらも、家庭環境や経済状況に恵まれなかった苦労人たちが応募してくるように。今回密着した1人は、やる気に満ちあふれ、トントン拍子に正社員待遇に抜てきされるという優秀さだ。

■“色メガネ”で見ていたことに気づく

スーツ姿ということもあるかもしれないが、話しぶりからは18歳にとても思えず、夢や目標に向けてまい進する彼らは、心の底からイキイキしているように見える。彼ら自身、最終学歴が中卒であることに焦りはあるそうだが、「“ここから上がっていくしかない”という気持ちを感じました」とのことだ。

『ザ・ノンフィクション』では、8月9日に放送した『東大生の僕が手に入れたもの ~「東京大学相撲部」悩める青春~』で、苦悩する東大生たちの姿を紹介していただけに、この対比によって改めて“学歴”とは何かを考えさせられる。

島越Dは「僕は、最初に行った大学に納得できなくて辞めて別の大学に入り直して、そこから勉強するのが好きになって別の大学の院に入って…と、20代の頃はすごく学歴にこだわっていたんですけど、彼らを見て『あのときの俺、何してたんだろう…』って思ったりもしましたね。僕の目を覚ましてくれました」と吐露。

そこから、「“中卒”というバイアスなしで彼らを見たら、全然普通でとても魅力的な子たちなんです。今回の番組を見て、自分が実は“色メガネ”で見ていたということに気づくきっかけになってくれたらいいなと思います。『中卒だから仕事はできない』とか『大卒じゃなきゃダメだ』という学歴至上主義じゃなくても、社会は回っていくと感じました」と、番組に込めた思いを語る。

一方で、門脇麦のナレーションでは「学歴や経歴…世の中が思う常識や価値なんて、本当に分からないものです…」と語る部分があるものの、「やっぱり『東大生』って聞くとビビっちゃうし、きれい事だけじゃないなと、自分で撮りながらも思ってしまいます」と悩ましい。