ファインダー撮影時の速写性能と安定感にもゾッコン

ライブビュー(LV)撮影がミラーレス機とほぼ同等の使い勝手、および動作で行えるのもフラッグシップ一眼レフとしては随一の作り。EOS-1D X Mark IIIの登場時、「LV撮影時のAF追従20コマ/秒のスペックって、次世代EOS Rを予感させるものだよねぇ~」なんて言っていたのだけど、ホントにそうなってしまったことにも思わずニヤリだった。超重量級ボディなので、EOS-1D X Mark IIIに手持ちライブビュー撮影はお世辞にも似合うとはいえず、カメラを据え置いてのリモート撮影などが使われ方の中心になりそうな気がするけれど、一眼レフの新装備としてはタイムリーなものであり、D6を明確にリードしている要素でもある。

そして、未踏の「ミラー駆動アリの約16コマ/秒」が実現されているのもデカい。これを体験して思ったのは、このスピードに達すると、ファインダーの見え方は、それが一眼レフの光学ファインダーであってもほぼブラックアウトフリー(みたいな感じ)になるのねってこと。速いだけじゃなくミラーの止め方もしっかり、ガッチリしているから、動体を追いながら最速連写しているときのファインダーにも不用意な暴れは感じられず、総合的な視認性はきわめて良好。その実力と効能は、ランダムで激しい動きをするものに対峙しながらの撮影時に「被写体を追いやすい」と感じることに加え、のちに仕上がりを見たときに「あれだけ急激な動きを追っていたのにフレーミングが思いのほか安定している」という“結果”にも現れる。結論めいたことを口にしてしまうけれど、AFと連写に関しては、まさしく全方位に隙ナシのEOS-1D X Mark IIIなのだ。

  • 1秒間の出来事をピックアップ。「いーち」って唱えられるだけの、あっという間の“動き”が16枚の写真になっている。1コマ1コマを見ていくと、どれを“正解”(採用)とすべきか選び甲斐があることが分かると思う。撮影者としては、背景のボケとの構図的なバランスと水滴の飛び方重視なら7番、主役(この場合はコサギ)のフォルム優先なら8番、スピード感重視であれば9番を「採用カット」として選択したい。ハイライトをギリギリまで明るく再現することでヌケの良い印象の画に仕上げているところもイイ感じだ

  • こちらは、先のツバメとは別の場面を捉えた約16コマ/秒の連続写真。ごちそうだと思って捕獲に向かうも、上空で何者かに撃墜されたのであろうトンボの残骸(羽根)とわかってトホホ……の様子。エアブレーキを利かせながら対象に迫る様子が克明に捉えられている。Mark IIでは、このような「背景に広い空を背負った鳥」などを自動選択AFで撮っているとき、主要な被写体がもっと大きなサイズで画角内に収まっていても、不意にスコンと背景にピントを逃すことがあった。でも、Mark IIIではそういった粗相が相当に少なくなっている。ちなみに撮影者は、Mark IIIボディ(1,440g)+EF600mm F4L IS III USM(3,050g)の総重量4.49kgにヘコたれそうになりながら、必死の形相でカメラを構え高速移動し続ける被写体を撮っていたのだけど、これでもレンズは前型比で相当に軽量化されているので、泣き言をいっている場合ではありません

ミラー駆動を伴う16コマ/秒を実現するにあたり、メカは相当に磨き込まれているはずで、それが歴代最も上質なレリーズ感触を生むことにもなっている。撮影時の感触や音といった官能性能面では、これまでニコン勢が圧倒的な優位に立ってきていた(と私は思っている)のだけれど、そちら方面でも明らかに差を詰めているのだ。個人的には、撮影時の感触や音に関しては、いまだニコンに若干の分があるとの判断ではある。でも、振り返れば奴がいる状態の激しい追い込みがあることは確かなので、安閑とはしていられないだろう。

  • ミラーレス機とほぼ同等の使い勝手&使い心地でライブビュー(LV)撮影ができるようになったのも大きな特徴。フラッグシップ一眼レフにも、ついにその波が到達したのだ。ただ、ボディがデカく重いので、手持ちLV撮影は正直、快適ではない。モニターが非可動なのもその思いを増幅する(RF24-105mm F4 L IS USM使用、ISO100、1/200秒、F4.0、-0.7補正)

  • 数字だけを見ると物足りなさを感じる向きも存在しそうなフルサイズCMOSセンサー(有効画素数約2,010万画素)は、しかしナチュラルな解像感とリアルな質感描写により数字以上の仕上がりを生み出すとの印象。DIGIC Xによる適切なシャープネス処理や新設の「明瞭度」設定、そして撮影時から適用が可能になったデジタルレンズオプティマイザが、こういった撮って出しの場合に絶大なる威力を発揮しているのであろうことも想像に難くない(RF24-105mm F4 L IS USM使用、ISO125、1/60秒、F4.0、+0.7補正)

  • 1点AF(任意選択)で撮影。通常は、どのカメラを使うときにも手動測距点選択は循環選択設定(測距点が設定可能範囲の端に達したとき、設定測距点が反対側に飛ぶ設定。もちろん、それが可能なカメラの使用時に限る)を選んでいる私なのだけど、思ったよりも大きく測距点が移動してしまうこともあるスマートコントローラー使用時には、循環選択はお似合いではないと痛感。本機では珍しく「測距点突き当たり」の設定で撮ることになっている。一方、ド派手な音のする16コマ/秒は使いにくいと感じた場合は、「ソフト連続撮影(ファインダー撮影時約8コマ/秒)」で撮影すれば、ミラーショックも音もバッチリ低減。上手に併用したい(EF600mm F4L IS III USM使用、ISO500、1/1000秒、F4.0、+1.3補正)

  • 完全に測距点分布を外れるフレーミング。でも、自動選択AF+サーボAFのままでちゃんと撮れた。このときの手順は、まず上方の全日空機に自動選択AFでピントを合わせ、その後にこの形にフレーミングを変更してシャッターレリーズ……という感じだったのだけど、フレーミングが変わったことで突然ピントを合わせるべき対象を見失ったEOS-1D X Mark IIIのAFは、ほんの一瞬の間、AFの再サーチを始めたそうにググ、グググッとわずかにピントを前後させていた(AF測距不能時のレンズ動作は「サーチ駆動する」設定)。でも、結局は最後に合焦が確認できていた位置にピントを維持。カメラが下したその判断(サーチ駆動に踏み切らず我慢する)は適切だった。結果、許容できる精度のピントでこのカットが撮れているのだから。気の効き方がスゴいっす(EF600mm F4L IS III USM使用、ISO800、1/4000秒、F4.0、+1.3補正)

  • 測距点を外れているのに、見事に「目」に合焦している!! これは、EOS-1D X Mark IIIの隠し機能が発動してのマジック?? いいえ、単なる偶然です。でも、撮れちまえばコッチの勝ち。そして、その瞬間に勝てるコマが撮れるかどうか、撮れているかどうかは、良くも悪くも秒間コマ速に依存するカタチで成功確率が上下するってのが現実。数打ちゃ当たるとはいわないけれど、数を打っておけば選択の余地は広がる。それが現実なのだ(EF600mm F4L IS III USM使用、ISO1600、1/4000秒、F4.0、+1補正)

これまでのEOS-1 D系って、あらゆることを「力でねじ伏せている」感じが強かった。AFの制御など、9割方アタリでも残り1割の外し方がデカかったりもした。でも、Mark IIIは違う。さりげなくジェントルに100点満点中98点を獲得する高速機に仕上がっているのだ。今さらキヤノン様にこんなことをいうのもナンだとは思うのだけど、なんか「一皮剥けた」感じがしたねぇ。そういえば、EOS R5とEOS R6もズル剥けだよねぇ。こりゃ、2020年の後半戦は、キヤノンのズル剥け攻勢に要注目!!ってことになりそうですな。

  • 最上級に磨き上げられた速写性能だけでなく、まるで撮影者の心を読んだかのような電子機器らしからぬAFの挙動など、一眼レフにこれほど大きな進化の余地が残されていたのかと思わず感服する落合カメラマン。再び一眼レフを衝動買いする日も遠くなさそう!?