この夏にキヤノンが投入したフルサイズミラーレスのフラッグシップモデル「EOS R5」「EOS R6」の高性能ぶりが写真ファンの間で話題になっていますが、今年のキヤノンは2月に登場したデジタル一眼レフのフラッグシップモデル「EOS-1D X Mark III」の存在も忘れてはなりません。落合カメラマンは、前機種からの進化の度合いがいまひとつ大きくなかったニコン「D6」とは対照的に革新的な進化が多く、フラッグシップを名乗るにふさわしい1台になったと実感していました。
私は「測距点自動選択AFマニア」である。撮影をするとき、測距点自動選択ばかりで撮っている……ワケではない。ピント合わせをカメラに丸投げしたとき=測距点自動選択AFで撮ったときのカメラ自身の振る舞いや仕上がり結果を基準に、当該カメラの実力を判断するということをもう長いこと続けているのだ。「AF」「AE」「AFが追従する最速の連写」「連写中の画角変化への対応」……これらのコンビネーションを見れば、おのずと当該カメラの“処理能力”と「思い通りの仕上がりを得るために強いられる工夫や苦労」が見えてくる(と考えている)のだ。
というワケで、今回試用したキヤノン「EOS-1D X Mark III」がナンボのモノであるかの判断も同じような作業で導いている。よって、話はそこが中心になることをお断りしておきたい。もっと親切で普遍的なレビューは、ほかにアチコチに転がっていると思うので、ゼヒそちらを参考にしていただければ、と。
撮影者のキモチを読み取ったかのような自動選択AFの挙動に驚く
さて、EOS-1Dといえばカメラ界の頂点に君臨するといっても過言ではない「最高級デジタル一眼レフ」だ。ニコンの「D一桁」シリーズとしのぎを削ってきたデジタル一眼レフ界の雄でもある。ちなみに、名称の「EOS」と「数字」の間に「-(ハイフン)」が入るのは「EOS-1」だけ。フィルム時代にまで遡ると「EOS-3」というモデルもあったのだけど、現在は「1」以外に“ハイフンモデル”は存在しない。要するに、EOS-1D Xシリーズは「名前からして特別な存在」なのだ。
で、この新型、前モデルである「EOS-1D X Mark II」との比較では明らかに、いや、あからさまに、こちらの方が優れていると感じさせてくれた。中でも、自動選択AF(測距点自動選択)時の被写体のつかみと、その継続に係る確実性の向上が著しい。
また、被写体が画角内に小さくしか存在していない場合や、複数の距離にピントを合わせられる要素が混在しているときも、カメラに全てお任せのままイイ具合に「撮影者が撮りたいと思っている被写体」を認識してくれるところも痛快だ。基本「自動選択AF時のピントは至近優先」であるハズなのに至近を優先しすぎることがない……そのバランスがなんとも絶妙なのである。
そして、いったん被写体を捉えた(認識した)ならば、その後はターゲットをガッチリ離さず、ときにそれを追尾するような動きを見せることもある。自動選択AFにピント合わせのほぼすべてを任せられるのみならず、フレーミングの自由度まで享受できるという、やたらに気の利く自動選択AFになっているのだ。
被写体の明るさや色、形などの情報をもとに被写体の認識や追尾を行う「EOS iTR AF」は、従前の機種にも複数の採用例が見られる実績のある装備なのだけど、本機のそれは「EOS iTR AF X」に進化しており、新たに「頭部検出」を行うようになっているらしい。今回は、頭部検出の恩恵にあずかることはなかったように思うけれど、AF全般の実力が底上げされているのであろうことはしっかり実感できている。
ちなみに、ニコンD6で近似の手応えを得ようとする場合は、オートエリアAFではなく3D-トラッキングAFを選択する必要がある。D6の3D-トラッキングAFも従来機との比較では数段の進化を見せており、相当に賢く使いやすくなっているのだけど、どの被写体にピントを合わせるべきかは最初の段階で必ずカメラにキッチリ教えてやらねばならない。
でも、EOS-1D X Mark IIIでは、ニコンの最新3D-トラッキングAFに匹敵するといえなくもない使い勝手が、カメラに丸投げの自動選択AFの範疇でも得られる。実際に現場でそれを使うかどうかは別にして、機能的なアドバンテージは明確であり、撮るものやシチュエーションによっては、この差はけっこうデカく感じられるんじゃないだろうか。ニコンのオートエリアAFは頑固な至近優先動作が特徴でもあるしね(そのぶん3D-トラッキングAFの使いこなしが勝利への近道になる)。