この夏にキヤノンが投入したフルサイズミラーレスのフラッグシップモデル「EOS R5」「EOS R6」の高性能ぶりが写真ファンの間で話題になっていますが、今年のキヤノンは2月に登場したデジタル一眼レフのフラッグシップモデル「EOS-1D X Mark III」の存在も忘れてはなりません。落合カメラマンは、前機種からの進化の度合いがいまひとつ大きくなかったニコン「D6」とは対照的に革新的な進化が多く、フラッグシップを名乗るにふさわしい1台になったと実感していました。

  • キヤノンが2月に発売したデジタル一眼レフのフラッグシップモデル「EOS-1D X Mark III」

    キヤノンが2月に発売したデジタル一眼レフのフラッグシップモデル「EOS-1D X Mark III」。実売価格は税込み80万円前後。装着している交換レンズは、実売価格なんと税込み162万円前後の超望遠レンズ「EF600mm F4L IS III USM」。このゴージャスな組み合わせを中心にレビューしてもらった

私は「測距点自動選択AFマニア」である。撮影をするとき、測距点自動選択ばかりで撮っている……ワケではない。ピント合わせをカメラに丸投げしたとき=測距点自動選択AFで撮ったときのカメラ自身の振る舞いや仕上がり結果を基準に、当該カメラの実力を判断するということをもう長いこと続けているのだ。「AF」「AE」「AFが追従する最速の連写」「連写中の画角変化への対応」……これらのコンビネーションを見れば、おのずと当該カメラの“処理能力”と「思い通りの仕上がりを得るために強いられる工夫や苦労」が見えてくる(と考えている)のだ。

というワケで、今回試用したキヤノン「EOS-1D X Mark III」がナンボのモノであるかの判断も同じような作業で導いている。よって、話はそこが中心になることをお断りしておきたい。もっと親切で普遍的なレビューは、ほかにアチコチに転がっていると思うので、ゼヒそちらを参考にしていただければ、と。

撮影者のキモチを読み取ったかのような自動選択AFの挙動に驚く

さて、EOS-1Dといえばカメラ界の頂点に君臨するといっても過言ではない「最高級デジタル一眼レフ」だ。ニコンの「D一桁」シリーズとしのぎを削ってきたデジタル一眼レフ界の雄でもある。ちなみに、名称の「EOS」と「数字」の間に「-(ハイフン)」が入るのは「EOS-1」だけ。フィルム時代にまで遡ると「EOS-3」というモデルもあったのだけど、現在は「1」以外に“ハイフンモデル”は存在しない。要するに、EOS-1D Xシリーズは「名前からして特別な存在」なのだ。

で、この新型、前モデルである「EOS-1D X Mark II」との比較では明らかに、いや、あからさまに、こちらの方が優れていると感じさせてくれた。中でも、自動選択AF(測距点自動選択)時の被写体のつかみと、その継続に係る確実性の向上が著しい。

また、被写体が画角内に小さくしか存在していない場合や、複数の距離にピントを合わせられる要素が混在しているときも、カメラに全てお任せのままイイ具合に「撮影者が撮りたいと思っている被写体」を認識してくれるところも痛快だ。基本「自動選択AF時のピントは至近優先」であるハズなのに至近を優先しすぎることがない……そのバランスがなんとも絶妙なのである。

そして、いったん被写体を捉えた(認識した)ならば、その後はターゲットをガッチリ離さず、ときにそれを追尾するような動きを見せることもある。自動選択AFにピント合わせのほぼすべてを任せられるのみならず、フレーミングの自由度まで享受できるという、やたらに気の利く自動選択AFになっているのだ。

  • 測距点自動選択でこの場面を撮ろうとすると、手前の柵にピントが合うばかりでどうしても雀にピントが合わせられない……ということがありがち。でも、EOS-1D X Mark IIIの自動選択AFは、初回のAF動作でこそ手前の柵にガツンと合焦だったのだけど、「違うんだよなぁ~」とばかりに再度AFを動作させると「あ、ひょっとしてピントを合わせる場所が違った? じゃあこっち?」みたいな感じでスッと別のポイントにピント位置を移動してくれる(ことが多い)。その、あたかも“意思の疎通”がなされているかのような測距点コントロールができるという意味において、本機の測距点自動選択動作は“新しい”と感じられるものだった。かなりイケてる(EF600mm F4L IS III USM使用、ISO1000、1/4000秒、F4.5、+0.7補正)

  • 背景がチョ~うるさいこのような状況においても、自動選択AFにお任せのままちゃんと「撮りたいもの」にピントを合わせてくれるのがスゴい。こういう場面で「撮影者が撮りたいと思っているモノ」にスッとピントを合わせてくれるカメラって、実はほとんどないのだ(背景のビル群を撮りたいと思っているのなら話は別)。自動選択AF+サーボAF時の「スタート時測距点(サーボAFを開始する位置)」は、カメラまかせの「AUTO」のほか、任意選択したAFフレームからスタートする設定も選択可能。今回は、自動選択AF+サーボAFで撮ったものは、すべて同設定は「AUTO」で撮影している(EF600mm F4L IS III USM使用、ISO3200、1/4000秒、F4.5、+1補正)

被写体の明るさや色、形などの情報をもとに被写体の認識や追尾を行う「EOS iTR AF」は、従前の機種にも複数の採用例が見られる実績のある装備なのだけど、本機のそれは「EOS iTR AF X」に進化しており、新たに「頭部検出」を行うようになっているらしい。今回は、頭部検出の恩恵にあずかることはなかったように思うけれど、AF全般の実力が底上げされているのであろうことはしっかり実感できている。

ちなみに、ニコンD6で近似の手応えを得ようとする場合は、オートエリアAFではなく3D-トラッキングAFを選択する必要がある。D6の3D-トラッキングAFも従来機との比較では数段の進化を見せており、相当に賢く使いやすくなっているのだけど、どの被写体にピントを合わせるべきかは最初の段階で必ずカメラにキッチリ教えてやらねばならない。

でも、EOS-1D X Mark IIIでは、ニコンの最新3D-トラッキングAFに匹敵するといえなくもない使い勝手が、カメラに丸投げの自動選択AFの範疇でも得られる。実際に現場でそれを使うかどうかは別にして、機能的なアドバンテージは明確であり、撮るものやシチュエーションによっては、この差はけっこうデカく感じられるんじゃないだろうか。ニコンのオートエリアAFは頑固な至近優先動作が特徴でもあるしね(そのぶん3D-トラッキングAFの使いこなしが勝利への近道になる)。

  • ピントは賢い自動選択AFに丸投げ。人間はフレーミングの構築とシャッターチャンスの見極めに集中してのシャッターレリーズだ。この極めて現代的な使い勝手に、今はなき「視線入力AF」が組み合わせることができたとするならば、一体どんな撮り方ができるのだろう? 想像するだけでワクワクする。ちなみに、本機のファインダー内における測距点表示は、個々の枠をドットで描いており、視認性と出しゃばりすぎない存在感のバランスがとても良いのも好印象(EF600mm F4L IS III USM使用、ISO800、1/4000秒、F4.5、+1補正)

  • ついにネッシーを撮った!?(いうことが古っ!!) ここでは、まず自動選択AFで撮り始めたのだけど、本場面ではさすがに周辺の水面(波)にピントを奪われるばかりだったので、急ぎ1点AFに切り替え撮影することに。その結果がコレである。新兵器「スマートコントローラー」によるスムーズな測距点移動操作(初代EOS Rのアレとは扱いやすさが大違い)に助けられた場面でもある。ちなみに、写っているのは、ネッシーではなく「スイミング・スネーク」なので念のため(EF600mm F4L IS III USM使用、ISO1000、1/4000秒、F4.5、-0.7補正)

  • 初夏の頃、高く低く縦横無尽とも思える航跡を描きながら超高速で飛び回るツバメの姿を見たことがあるだろうか。これを思い通りに撮るのは、サーキットを走るクルマやバイクを撮るよりも数十倍、難しいハズなのだけど、EOS-1D X Mark IIIの「自動選択AF+AIサーボAF+約16コマ/秒」だと思いのほか簡単に撮れてしまってビックリ。この場面では、まず画角内にご覧の通りの“小ささ”で存在するモノを自動選択AF(サーボAF開始測距点AUTO設定)が正確に認識、難なくAF追従を見せた点に驚かされることになった。そして、等倍で見て初めて分かるこの瞬間(捕虫の直前)を見事、捉えているのは、紛れもなく約16コマ/秒の恩恵。ぶっちゃけ、撮っているときには気づいていない(見えていない)一瞬が知らぬ間に撮れていたっつうことで、この結果は私ではなくカメラの実力ってことなのです(EF600mm F4L IS III USM使用、ISO200、1/2000秒、F4.0、+0.7補正)