キーワードは個人とAIとロボット
1つひとつのトレンド(キーワード)が非常に抽象的でわかりにくい感じを与えるが、1つ目のトレンド「体験の中の『私』」については、生活者は個々人に対してカスタマイズされたさまざまな体験に対しては好意的になるが、企業から、あなたという人物はこういったものが好きですよね?、といった押し付けに対しては懐疑的な姿勢をを見せるというもの。この問題をいかに解決していくかは難しい問題だが、山根氏は「重要なのは提供から共創への転換が重要」とし、企業と顧客が共にサービスを作っていくという体験をいかにテクノロジーを活用して作っていくかがポイントになるとする。
すでに海外を中心にそうした取り組みが始まっているが、何も最終消費者と企業、という構図だけではないという。例えばマクドナルドは店舗の従業員が現場の気温や湿度などの状況を踏まえ、メニューを切り替えることを可能にして売り上げを伸ばしているという。
2つ目の「AIと私」というトレンドは、よりAIと人間が ビジネスにおいて相互理解を深め、パートナー的な存在になっていく必要があるというもの。すでにアクセンチュアジャパンもAIとの協働を「文化」として根付かせていこうという取り組みをスタートさせており、AIやロボットがコンサルティングの横にいることが当たり前の会社を目指し、その第一歩として全社員にRPAロボットを配布。今後、提携業務だけではなく、さまざまな相談などを人間とAIが相互やり取りのなかで実現していくバディのような文化の実現を目指していくとしているが、そうしたAIの活用において山根氏は「AIに対する信頼を失わないようにすることがポイント」とし、以下に倫理やプライバシー的な観点を含め、人間中心のAIをデザインしていくかが重要になってくるとする。
3つ目の「スマート・シングスのジレンマ」というトレンドは、生活者に提供されるサービスはさまざまな機能を次々に実装するために、永遠にアップデートが繰り替えされることとなる。言ってしまえば「永遠のベータ版」であり、完成というものがない状態である。「機能が増えれば、開発における負荷は増していく。アップデートのたびに操作性や機能内容が変わってしまうと顧客との信頼関係を構築することも難しくなる。こうした問題を解決するためには、製品を通じた体験を軸とした顧客と企業の信頼関係をいかに築いていくことだ」(山根氏)であり、一貫した製品体験を提供することが必要であるとした。
4つ目の「解き放たれるロボット」というトレンドは、ロボットというものの定義がこれまでよりも下がり、さまざまな場所で活用されるようになってきたことを指摘したもの。工場でのAGVの活用やもとより、ホテルや病院、果ては物流における無人搬送が新型コロナの人同士の接触機会低減を目指して活用が進められるようになってきており、これまでロボットを意識してこなかった企業であっても、ロボットの活用を考える必要がでてくる。
そうしたさまざまな場所、産業に向けてロボットの活用を効率的に解き放っていくためにはどういったことが必要なのかを企業は考える必要がでてきた。例えばトヨタ自動車は、あらゆるモノやサービスをつなげるコネクテッドシティ「Woven City」を立ち上げることで、自動車のみならず、AIやロボット、街、自動車、あらゆるものをつなげることで何ができるのかを探っていく取り組みを大々的に披露。自社のみならず、多くの企業にも参画を呼び掛け、開かれたエコシステムを構築しようとしている。
「こうした開かれたエコシステムの中で解き放たれるロボットに必要なのが継続的なテストと更新。実際の現場で動かしてみないとわからない問題点は多い。これを即座に把握して、更新していくことがエコシステムの中で求められることになる。それを実現していくためには一緒になって育てていこうという認識のもとに成り立つ『トラスト』を共有する必要がある」(同)という。このトラストは必ずしも企業と企業の間にだけあれば良いわけではない。人間のロボットに対するトラスト、1つの企業内でのトラスト、人間と企業の間に存在するトラストなども必要であり、開かれたエコシステムとしてこうしたさまざまなトラストを構築していくことが重要になってくるとした。