出版不況と言われて久しいこの時代に、販売部数を伸ばしている雑誌がある。シニア女性向けの年間定期購読誌『ハルメク』だ。同誌の活動は紙媒体にとどまらず、プライベートブランド製品の開発・販売、イベント開催など、多岐にわたる。シニア層の増加を追い風に、ハルメクはどうやってさまざまな事業を成功に導いているのか――編集長の山岡朝子氏に話を聞いた。

  • ハルメク 編集長 山岡朝子氏

部数を伸ばすために、誌面のトピックを刷新

ハルメクは50代以上をターゲットとした月刊誌だ。月刊紙だが書店では販売されておらず、読者は定期購読に申し込めば自宅に直接届くという仕組みだ。

ハルメクを出版する株式会社ハルメクは、出版事業、通信販売事業、文化事業、店舗事業、Web事業(ハルメクWEB)といった複数の事業を持つ。現在、ハルメクの販売部数は32万部。2年でほぼ倍増となった。編集長に就任してから、右肩上がりで販売部数を伸ばしてきた山岡氏は就任当時をこう振り返る。

「雑誌の立て直しには、広告収入を増やす、価格を上げるなどいろいろな方法がありますが、ハルメクでは読者数を増やすことに注力しました。そのために、より幅広い層のシニアに楽しく読んでいただける内容にリニューアルを図ったのです」

そこで、それまで「シニア誌らしい」特集が多かったところ、一般の女性誌と同じようなテーマを扱うことにした。「シニア誌ではなく女性誌と再定義して、ターゲットである50代以上の女性が興味を持ちそうなファッション、美容、料理、片付けなどのテーマを増やすことにしました。その結果、これまで以上に多くの方々から自分向けの身近な雑誌として見ていただけるようになりました」と山岡氏。

読者の声を徹底的に調べてからの記事づくり

読者が何を知りたいのかを知る上では、社内に抱えるシンクタンク「生きかた上手研究所」を活用している。例えば、人気特集の「スマホの使い方」、これは山岡氏が編集長に就任する前からあった定番の特集だが、就任を機に、生きかた上手研究所と組んで、読者がスマートフォンを利用する際にどこでつまずいているのかを定量的に調べた。その結果、それまでの特集で紹介していた使い方よりも基本的なことで読者は困っていることがわかった。

「読者に『スマホ日記』を付けていただきました。毎日どんなことにスマートフォンを使い、どんなところで困ったのか、イライラしているのかなどを1週間ほど書いていただいたのです。そこから、お困りのレベルはわれわれが想定していたものとはかけ離れていることがわかり、読者のレベルに合わせて特集を組みました。すると、非常に満足度が高いものになりました」(山岡氏)

このように、「読者の声を調査し、本当に求めていることを理解して」という姿勢を大切にしているハルメクにとって、データは重要な役割を果たす。特集を作る前に編集部は幅広いネットアンケート、少人数の読者を対象としたグループインタビューなど定量的、定性的な調査を行っているという。調査段階で3カ月ほど。その後の作業を入れると、合計6カ月ほどを費やして1つの号を作っているそうだ。Webに代表されるスピードの時代と逆行するように感じるが、時間のかかる紙ならでは、定期購読ならではのメリットもある。

  • 実際に読者の方に話をうかがうことで、いろいろなことがわかるそうだ

例えば、「『ハルメク』では雑誌にとじ込まれているはがきを通じて特集を読んだ後の感想をしっかり聞くことができる」と山岡氏。とじ込みはがきは月に2000枚ほど戻ってくるが、「定期購読なのでハルメクに自分の意思を伝えたいという参加意識が強いようです」と、山岡氏はいう。