不動産の営業マンを信用しすぎて陥る不動産地獄
不動産投資をする人は日本では少ないでしょうが、最近は普通のサラリーマンによる不動産投資が増えているので、ここで失敗例を説明したいと思います。
不動産業界は証券や保険と異なり当局の指導がさほど厳しくないです。金融業の免許を持っている業者には金融庁や財務局から顧客への投資リスク説明、商品内容説明、交付する書面など徹底的に義務づけられ定期的に検査がありますが、不動産会社にはそれがありません。
取り引き時に重要事項説明をしないと業法違反になりますが、それは取り引きを成立させるための要件で、投資リスクを説明するものではないのです。
「不動産地獄」に陥る人に一番多いと思うパターンは「新築マンション投資によるマイナスキャッシュフロー」。中古マンションは新築マンションに比べると利回りが低いです。不動産投資の前提は、銀行から借り入れをしてその資金で不動産に投資し、そこの賃料収入から銀行借り入れの元本や利息を返済するというもの。
利回りが低いということはその賃料収入が少ないということです。マイナスキャッシュフロー(以下、マイナスCF)になるという意味はその賃料収入から借り入れ返済を引いた値がマイナスになる。つまり、賃料収入では返済しきれず、持ち出しが発生している状態なのです。新築マンションに投資するとこの状態になる可能性が高い。
分かりやすく実際の事例を使って説明したいと思います。前提は5年前、都心新築区分マンション10部屋に投資(投資総額2億円、平均年利回り3.5%)、銀行借入総額2億円(借入金利1.8%)。物件、借り入れの条件は相場だろう。この前提だと年間の賃料収入は700万円に対して、借り入れ返済総額は770万円となり70万円のマイナスCFとなります。
毎年70万円の持ち出しが必要なのに、なぜこの物件に投資したのでしょうか。この方は高収入で税金が高く節税目的で投資をしたのです。マイナスCFですが、税的メリットを感じ、それを納得した上で投資しています。では、なにがこの場合問題なのでしょうか。それは、このマイナスCFが拡大していること。
新築物件は新築プレミアムが存在しているので家賃が中古より高いです。なので、新築物件を借りる人は高い賃料を払うが、次に入居する人にとっては中古なので賃料は下がる可能性が高い。そして月日を追うごとに古くなり、賃料は下がり続けます。
紹介したケースでは、築5年で年間家賃は700万円から665万円と35万円下がりました。家賃は5年で5%くらい下がることになります。つまり、マイナスCFは返済総額770万円から665万円を差し引き105万円となりました。
投資した物件は人口減少地域でさらに賃貸需要の減少もあり、賃下げ圧力が強く今後も毎年1%ずつくらいマイナスCFは拡大しつづける可能性が高いでしょう。さらに5年後には140万円、10年後には175万円、15年後には……。
分かりやすいよう詳細は省略しますが、5年の間にも修繕費や諸経費、空室になっている期間もあり、それらを含めるとマイナスCFはさらに大きくなり、修繕費や空室率は古くなるごとにかかるので、マイナスCFは将来は大変な数字になることが予想できます。これが「不動産地獄」です。
この不動産投資家の落ち度は勉強不足で家賃下落を想定しなかったこと。また、不動産を販売した営業マンが不誠実なのは家賃下落を説明しなかったことです。
そして、その家賃下落を説明する義務がない不動産業界では、この営業マンが説明しなかったことは「お咎めなし」となるのです。
信頼できるアドバイザーの探し方
これまでの失敗事例を見ていただければ分かるように、投資初心者にとってもっとも大事なのは信頼できるアドバイザー探し。その重要なポイントは3つです。
資産全体の提案をしている会社にまず相談する
株式や債券、不動産そもそも自分が何にどれくらい投資すればいいのかを検証する必要があります。特定の商品だけを持っている会社に相談すると必ずその商品を勧める提案やトークになるので、そのバイアスがない会社に相談するのが重要です。
1社だけではなく、何社か話を聞いてみるということ
10社とは言いませんが、複数社聞くべきでしょう。そうすることで会社ごとの特徴や考え方が分かり、その中で自分に一番合う会社をアドバイザーとして選べばよいのです。
余裕がある会社と担当者を選ぶこと
余裕がない会社や担当者を選ぶと、顧客のリスク許容度の範囲を超えていてでも、商品を買わせたいというバイアスが働きます。顧客のメリットより、会社や担当者本人のメリットを選ぶのです。会社も担当者もどちらも余裕がないと顧客本位の良い提案は絶対にできません。
まとめ
本記事は以上となりますが、投資アドバイザー選びの大事さを分かっていただけましたか。本当に信頼できるアドバイザーを探すのは簡単ではないですが、数年をかける価値があると考えています。皆さんが素晴らしいアドバイザーを見つけ、少しでも資産形成が進むことをお祈りしております。
著者プロフィール:世古口俊介(せこぐち・しゅんすけ)
プライベートバンカー、株式会社ウェルス・パートナー代表。
大学卒業後、2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(兼クレディ・スイス証券)のプライベート・バンキング本部の立ち上げに参画し、プライベートバンカーとして同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格。現在は株式会社ウェルス・パートナーの代表として富裕層や事業オーナー向けに資産配分と資産運用設計の最適化コンサルティングを提案。