有名人の自殺が起こると、知人や関係者が故人を偲ぶ追悼コメントを出すことが多いが、そのたびに取り上げてニュースにしていくと、結果として自殺に関連する報道が連日、多数配信されることになる。我々ネットニュースに見られがちなこの状況については、どう捉えているのか。
「まず1つは、ガイドラインにはそこまでのことについては書かれていないということ。より正確に言えば、『自殺により遺された家族や友人にインタビューをするときは、慎重を期すること』とはありますが、それは自殺自体についてであって、生前を偲ぶような内容を指しているわけではありません。我々が身近な人を亡くした後にも“喪に服す”という期間がありますよね。そういう時間は大事なので、亡くなった人の生前の活躍とか存在について話をするというのは、私はあってしかるべきではないかと思います。ただ、そういう報道がどんどん続いて、いつまで経っても過去のことにできないように、過度に煽(あお)り続けるような追悼的な報道というのは、やはり抑制的であるべきだとも思います」
こうしたケースも含め、どこまで報じるか・報じないかというのは、メディア自身がその都度判断していく問題だ。
「自殺報道の第一報もそうなんですが、何をどう報道すべきかについて葛藤する中で、それぞれのメディアが報道すべきだと思っています。ガイドラインには、現場や場所を伝えないこと、自殺の手段を報じないことなどが書かれていますが、例えば学校側が子供のいじめを否定しているときに、真実を伝えるために遺書の文面を出すということもあると思います。そこは、報道の意義と社会的な意義というものがある一方で、自殺リスクを高める危険性との狭間で葛藤して発信していくことが、あるべき姿だと思っています。その葛藤がなく、視聴者や読者の関心という基準のみで自殺報道をしてきたメディアが多いように思うので」
■木村花さんから三浦春馬さんの事例で起きた変化
2001年にNHKの報道ディレクターとして自殺報道に関わってから、この問題を見つめてきた清水氏。その当初から比べると、2006年に自殺対策基本法が制定されたことをきっかけにメディアの意識も変わっていき、日本の自殺報道は大きく改善されているという。
また、木村花さんと三浦春馬さんの事例を比べると、「メディアの側にいる人から『適切な報道がなされていないのではないか』という検証が行われるようになってきたと思いますし、Twitterでは一般の方が『これはガイドライン違反じゃないか』という指摘が増えたようにも感じました」と、この2カ月の間でも自殺報道をめぐる認識に変化があった。
NHKのアナウンス室では、自殺報道について勉強し直すために、清水氏を講師に招いて研修を行うとのことだ。