意外なほど実用性が高かった2本の超望遠レンズ

今回は、新生EOS R兄弟の強大な実力だけではなく、一緒に出てきたRF600mm F11 IS STMとRF800mm F11 IS STMのユニークな着眼点とその想像を超える実力にもシてヤラれている。こういう発想って、数字だけの高性能や旧態依然とした「プロが好むシステム構成」だけに目を奪われていると絶対に出てこないと思う。個人的には、写真を撮るためのカメラを作り続けてきたキヤノンの底力が現代に思わぬカタチで発揮されたと受け止めるに至り俄然、使ってみたくなった次第。

  • EOS R5と同じ7月30日に販売が始まった超望遠レンズ2本。左が「RF600mm F11 IS STM」(実売価格は税込み96,800円前後+ポイント10%)、右が「RF800mm F11 IS STM」(実売価格は税込み124,300円前後+ポイント10%)。どちらも強い品薄傾向で、量販店では早くも入荷待ちの状況となっている

箱から出すときに思わずニヤけてしまったレンズは初めてだ。どんな使い心地なのか、どんな写りをするのかまったく想像もつかないという、期待と怖いモノ見たさがない交ぜになったニタニタだったような気がする。そして同時に、焦点距離だけを見るならば「とてもお安くて軽い」レンズであるぶん、パーフェクトな使用感が得られるワケはないと身構えてもいた。「100歩譲って画質は及第点でもAF、とりわけ動体を撮ろうとしたときのAFの動作には鈍さを感じるだろうなぁ」という事前予測が、使用後にガッカリしないための予防策として最初から私の中には設定されていたのだ。

沈胴のロックリングをクイッと回してロックを外し、レンズをズズッと伸ばしきったところでもう1回クイッとロック。レンズを撮影可能状態にするこの一連の操作がナニゲに楽しい。EVFを見ると、中央にグッと集まっているAF測距エリアにこのレンズの特殊な立ち位置を知らされることになる。多くのRFレンズやEFレンズで測距点自動選択(顔+追尾優先AF)時に横約100%×縦約100%の範囲、つまり画角内の全域でピントが合わせられるようになったEOS R5とEOS R6でも、この2本のレンズ使用時に限っては、測距点分布が画面中央の横約40%×縦約60%に限定されてしまうのだ。

で、実際に使ってみて驚いた。このレンズ、ちゃんと実用になるのだ(なんか失礼な言い方ですが)。AFは十分に速いし、被写体認識はサクサク決まるし、そのままサーボAFで動体を追ってもまったく不足を感じさせずにしっかりピントが追従してくれる。AF測距点分布は狭いけれど、それも中級一眼レフ並みだと思えば納得できないことはない……かもしれない。そして、その範囲内であれば被写体の捕捉、および追尾動作には、少なくとも目で見ている限り明らかなハンデを感じることは皆無。本当によくできているのだ。

レンズ内の手ぶれ補正(IS)もよく効く(ボディISとの協調は不可。ただし角度ブレと回転ブレはボディ内ISで補正を実施)。補正効果は600mmがシャッター速度換算で5段、800mmが同4段相当ということで、EOS R5とEOS R6のウリのひとつである「最大8段の手ぶれ補正効果」には遠く及ばない数字ではあるけれど、実際に800mmで手持ち1/50秒が7割程度の成功率で使えた(ブレずに撮れた)ことを考えると、そちら方面の実用性も十分であるということ。現行のRFレンズの中でボディとのIS協調ができないのは現時点この2本だけということで、やっぱり“特殊な存在”ではある。でも、製品化に踏み切ってもらえたことは、我々ユーザーにとってはプラス以外のナニモノでもないと断言したい。ジツに嬉しく楽しい「新たな提案」なのである。

  • EOS R6のISO25600。細部のディテールを不用意に潰すことのない巧みなノイズ処理が垣間見られる見事な仕上がりだ。EOS R6にとっては何の躊躇もなく使える日常茶飯の感度であるといっていい(EOS R6+RF800mm F11 IS STM使用、ISO25600、1/320秒、F11.0)

  • キヤノンは「画素数はEOS 5D(s)の方が多いが、解像性能ではEOS R5が勝る」と明言。AFや連写性能、そして画質面でも一眼レフに忖度しない突き抜け方を見せる新生EOS Rを目の前にすると、今この段階であえて一眼レフのEOS 5Dシリーズを選ぶ理由って何だろう?という自問自答に足を絡め取られることになる。光学ファインダーじゃなきゃ写真が撮れないというのなら話は簡単なのだが……(EOS R5+RF24-105mm F4 L IS USM使用、ISO100、1/200秒、F8.0)

  • 唐突に訪れたチャンスに焦り、被写体認識ではなく1点スポットAFによる「安全で確実な路線」を選んでしまった自分の小ささが残念。ニューモデルの作例を撮っているという感覚が瞬時にブッ飛んでました。でも、手ぶれ補正機能には、すっかりおんぶに抱っこ状態。800mm+手持ち1/50秒がまさかブレずに撮れてるとは思っておらず、背面液晶モニターで仕上がりを確認したときには図らずも「おおー」と声が出ちまいました。ちなみにEOS R5の背面液晶モニターは、実際の仕上がりよりも1.5倍ぐらい写りがよく見えるので、そこを間引いての判断が肝心カナメであります(EOS R5+RF800mm F11 IS STM使用、ISO12800、1/50秒、F11.0、+0.3補正)

  • メカシャッター時は、バッテリー残量の低下など複数の条件により、段階的に(最大3段階)秒間コマ速が落ちる制御がなされ、その現況はファインダー内の連写表示に明示される……というのもEOS R5とEOS R6の新しいところ。連写速度の落ち方はけっこうあからさまで、そういうことがあり得ることを理解していないと「いきなり調子が悪くなった!?」とビビることになるので注意が必要だ。また、バッテリー持続力は、ファインダー省電力優先設定時のファインダー撮影時に約320枚と少々、心許ない数字になっているものの、数時間に集中する連写しまくりの撮り方だと結果的に2,500~3,000枚ぐらい撮れそうな感じではあった(EOS R6+RF600mm F11 IS STM使用、ISO800、1/4000秒、F11.0、+0.67補正)

  • 明暗差の大きな玉ボケや夜景などで主張の強いボケを見せることがあるのは、DOレンズを用いるレンズ構成だからか。条件が揃わなければ平滑で柔らかなボケが普通に得られるので過度な心配は不要も、頭の片隅に置いておきたい要件ではある(EOS R5+RF800mm F11 IS STM使用、ISO12800、1/125秒、F11.0)

  • シンプルな背景であれば、ボケは意外なほど柔らか。その反面、ピントが合っている部分のエッジの立ち方が人工的に見えることがあったりもする。デジタルレンズオプティマイザをはじめとする「使用レンズに応じた適切な画像処理」が実際にナニをしているのかよく分からないのだけど、ナニかいろいろヤッてるんだろうなーという気がしないでもない。結果オーライではあるけれど(EOS R6+RF800mm F11 IS STM使用、ISO6400、1/1000秒、F11.0)

ミラーレスだからこそ実用化できた個性的なレンズを新型ボディと同時に出す心意気。そんなところにも、今度のキヤノンはマジだと思わされた。有名俳優「M.S」が主演をつとめる人気ドラマ「H.N」の決め台詞じゃないけれど、キヤノンは密かに「やられたらやり返す」と思い続けてきたのだろう。これが“キヤノンの100倍返し”の始まりであることに期待したい。

  • 2012年10月に登場した「EOS M」以来、キヤノンの歴代ミラーレスに漂っていたモヤモヤがEOS R5やR6で取り払われたことを体感し、感慨深く感じる落合カメラマン。一眼レフにはなかった2種類の望遠レンズを製品化したことも、ミラーレスに対するキヤノンの本気ぶりを感じさせると評価する