「SE200」の音質とまとめ
DACによる「音の違い」は本当に実感できるのか!?
Astell&Kernのハイレゾ対応イヤホン「AK T9iE」をリファレンスにしてハイレゾ音源を聴き比べてみました。
AKM側のサウンドはダイナミックでパンチが効いています。中低域に厚みと立体感があり、高域は切れ味が良く煌びやか。ジャズのビッグバンドやアップテンポなダンスミュージックを再生すると、軽快なグルーヴを全身で味わえる没入感が楽しめます。ジャズのピアノトリオのメロディも朗々と歌います。
前機種のSE100はESSの8ch DACチップ「ES9038PRO」を搭載していました。とても馬力のあるDACチップを搭載するプレーヤーですが、豊富な情報量を伴う躍動感の鋭さはAKMのAK4499EQを搭載するSE200に軍配が上がりそうです。新旧機種の個性に明確な違いが感じられました。
続いてSE200のESS側のバランス出力にイヤホンをつなぎ替えて聴いてみます。こちらのサウンドはより落ち着きのあるクールな印象を受けました。ハイレゾ音源のディテールにいっそう深く入り込んでいくような分析的なアプローチで、フラットバランスできめ細かく、ジャンルの違う様々な音楽の表情を中立的に描き出せるDACチップです。同じ楽曲を聴いてみても、AKM側出力のサウンドとまったく違う色彩感を楽しむことができるので、自然と音楽再生にのめり込む時間が長くなってしまいます。
ESSのDACは筆者が聴いた音源の中では、特にしっとりとした女性ボーカル系の楽曲にとてもよくマッチしました。AKM側の出力で聴くと少し前面に出すぎる感じがしたボーカルの音像が適度にバランスよく、バンドの演奏と駆け引きを繰り返しながら音楽を紡いでいく様子が引き立ってきます。SE200に搭載されたDACは、AKMが「のめり込めるDAC」だとすれば、ESSは「音楽全体を俯瞰しながら楽しめるDAC」という違いがあると言えそうです。
音質カスタマイズも可能。SE200は長く楽しめるプレーヤーだ!
AKM/ESSのDACチップには、DACメーカーが提供する独自のDACフィルター機能が付いてきます。SE200の設定メニューに入り、AKM側は6種類、ESS側は3種類から好みのフィルターを選んで自分好みの音に作り込めます。ユーザーが任意に決めたセットアップを保存できる10バンドイコライザーも搭載されているので、音質のカスタマイゼーションの自由度はとにかく高いと感じます。
内蔵アンプの出力は十分にパワフルなので、インピーダンスが高めなベイヤーダイナミックの「T 1 2nd Generation」のようなHiFiヘッドホンも力強くドライブしながら、余韻のきめ細かなサウンドを聴かせてくれました。SE200のすべての端子はライン出力もできるので、オーディオシステムにつないでスピーカー再生を楽しむのも良いかもしれません。
SE200は最新世代のAstell&Kernのハイレゾプレーヤーと同様に「Open APP Service」にも対応。SpotifyやApple Musicのアプリ(APK形式)をインストールしてWi-Fi経由でインターネットに接続すると、音楽ストリーミングサービスのコンテンツを聴けるようになります。スマホよりも段違いに“いい音”を、しかもふたつの高音質DACの音を聴き比べながら1台で手軽に楽しめるポータブルプレーヤーはSE200のほかにありません。
SE200は実売で約24万円もする高級モデルです。DACチップの音を聴き比べる楽しみ方も、どちらかと言えばポータブルオーディオのことをよく知る中上級者向けですが、実際に聴いてみるとはっきりと違いがわかり、ふだんよく聴いているアーティストの演奏がDACチップの違いでまた異なる表情を見せてくれる面白さは万人に伝わるものだと思います。この1台があれば音楽再生がいつまでも長く楽しめるし、オーディオを趣味にするきっかけになるかもしれません。
筆者もSE200を試してみて、マルチDAC搭載プレーヤーの魅力がとてもよくわかりました。今後Astell&Kernを追いかけるライバルからもマルチDAC搭載機が出てきそうです。ポータブルオーディオ史に名前を残すであろうプレーヤーが誕生しました。