「8Kで文化財鑑賞」の舞台裏。茶碗コンは人工大理石製!?
東博では多数の収蔵品を展示していますが、実物がケース内にただ展示されているだけでは、その魅力や鑑賞の楽しさを来館者に感じてもらうことは難しい……という課題があったそうです。一方、シャープは8Kによる新しい体験やソリューションを提供して8Kの世界をより多くの人に伝えたいという思いがあり、文化財活用センター(ぶんかつ)を加えた三者で文化財鑑賞ソリューションの共同研究を進めてきたとのこと。
文化財活用センターでは、これまでにも8Kなど高精細データを活用した文化財の新たな楽しみ方を提案しており、今回はシャープが開発・制作した高精細な3DCG「8Kデジタルレプリカ」や8K機材、コントローラーによるインタラクションシステム、表示コンテンツ一式を用いた実証実験を実現させました。
今回使われている8Kモニターと、体験者の間の距離は約700mm(70cm)。これは70V型8Kモニターを見るのに最適な視聴距離となっています。約3,318万画素という高精細さのおかげで液晶のドットが目立たず、釉薬(うわぐすり)の模様やきらめき、階調表現なども3DCGながら本物の茶碗のようでした。
CG映像の制作にあたっては、表面の色味や光の加減の再現も重要なポイントで、シャープの担当者が東博に訪れて「一番良い状態で展示されている実物」を見学し、研究員らと協力してリアルな映像表現を追求。実物をよく知る研究員も納得の仕上がりになったと話していました。
シャープの担当者によると、今回の茶碗CGは8Kをさらに上回る高解像度データを使い、別の場所に用意したPCを使って8Kモニターに表示させる仕組みを採用。使用機材やシステムの詳細は非公開ですが、将来的にはシャープグループの一員であるdynabookのノートPCでこのシステムが動くようにすることも検討しているようです。
なお、使われている8Kモニターはタッチ操作に対応していますが、今回の実証実験では説明員がコンテンツを稼働させるためにタッチするだけで、来場者はモニターの代わりに茶碗型コントローラーを用いて操作するかたちとなります。
コンテンツの解説内容は、東博とシャープが共同で編集・制作。解説テキストを表示させるだけでなく、たとえば有楽井戸の色味をわかりやすく伝えるために果物(ビワ)のカラーイラストを加えるなど、鑑賞ビギナーにも配慮したデザインや工夫を凝らしたそうです。
ひととおりコンテンツを体験したあと、茶碗型コントローラーもじっくり見てみました。人工大理石をNCマシンで削り出し、実物のサイズや重さに合わせて作られているそうで、見た目は真っ白ですが本物の焼き物のような手触りが実にリアル。茶碗の凸凹やヒビ、底にある高台(こうだい)のザラザラした質感もしっかり再現されています。
会場には3つの茶碗のレプリカが用意されていますが、CGと連動するコントローラーとして使えるのは、中央の大井戸茶碗 有楽井戸のみ。当初は3つともコントローラーとして使うことを検討していましたが、操作が煩雑になることもあり、残りの2つは触り心地の体験のみに留めたそうです。
個人的には茶碗以外にも、印鑑や石像、刀剣といった文化財をこの8Kシステムで体験できると面白そうだと感じました。複雑なカタチや表面加工の再現は難易度が高そうですが、近年は特に刀剣への関心が高まっていることもあり、もし刀剣の8K体験が実現すれば大きな注目を集めるのではないでしょうか。
ガラスケースに収められた文化財の実物を、厳重に管理された照明や空調の下で眺めるだけだった鑑賞体験は、新しい技術の活用で大きく進化しています。コロナ禍における感染防止策を徹底したリアル展示だけでなく、今後はオンライン体験への拡大にも期待したいところです。