人々の行動などから物事を把握・分析する客観的なデータと、人々の主観や感情が流通するエモーショナルな空間であるSNS。両社は一見すると相反するものに見えるが、デジタルマーケティングを推進する企業にとってSNSの公式アカウントを運用することは重要なミッションである。しかし、その運用のなかで客観的なデータをどのように活用していけばいいのかについては、課題や悩みを抱えている企業は多いのではないだろうか。

トレジャーデータのオンラインセミナー「PLAZMA12」で行われた講演「企業と生活者の熱量を、データを通じてどう”つなげる”のか ~ファンをつくるデータマーケティングの考え方~」では、株式会社Legolissのデータアーキテクトである加藤英也氏と、長年すかいらーくホールディングスにて公式SNSなどにおけるコンテンツ展開を統括し、現在はカラビナハート株式会社のVice Presidentである吉田啓介氏が、データの専門家とSNS運用のスペシャリストという両者の立場から、企業SNSにおけるデータの活用法について語り合った。

  • 左から株式会社Legolissのデータアーキテクトである加藤英也氏と カラビナハート株式会社のVice Presidentである吉田啓介氏

    (左から)株式会社Legolissのデータアーキテクトである加藤英也氏とカラビナハート株式会社のVice Presidentである吉田啓介氏

これからのファン醸成に必要な、“一緒に盛り上がる”という視点

講演では、加藤氏、吉田氏それぞれの立場から、「データとSNS」をテーマにしてプレゼンテーションが行われた。

加藤氏は企業のデータマーケティングをコンサルティングしてきた立場から、「CDPに蓄積されるデータとSNSで生まれる感情や行動は別々にとらえられがち。データから感情をどう動かせるのか、SNSの熱量をどう数値化するのかが今回の大きなテーマだ」と課題提起した。

ご存じの通り、デジタルマーケティングの世界では、消費者の行動や情報を基にしたデータを活用していくことは常識であり、消費者の行動をどのようにビジネスに取り込み活用していくのか、消費者とどう向き合っていくのかは重要な視点だ。加藤氏は、この前提に「ビジネス構造の変化」を挙げている。

「これまでのマーケティングでは、多くの企業が新規の顧客獲得を重視してきたが、これからは顧客とのつながりを維持することを重視することが求められる。どのように商品やサービスのファンでいてもらうかが重要なポイントになる」(加藤氏)

つまり、どのように企業が接点を作り、生活者とつながっていくか、そこでエンゲージメントを生み出しファンを醸成していくか、その接点の作り方、そこに対する体験の作り方を考えることが、企業が考えるべきポイントなのだ。

  • 顧客との継続的な繋がりのためには、エンゲージメント≒ファンの醸成が不可欠になる

    顧客との継続的な繋がりのためには、エンゲージメント≒ファンの醸成が不可欠になる

その具体例として、加藤氏は「スポーツ」と「コンテンツ配信事業」を例に、マーケティングの変化を説明した。

スポーツ業界では、これまでは「いかにして観戦チケットを買ってもらうか」が重要なマーケティング課題だった。しかし最近では「いかにして一緒に盛り上がることができるかを、データを活用して推進することが、大きなポイントになってきている」(加藤氏)のだという。

「データを使うマーケター側も、顧客を“チケットを買ってくれる人”と捉えるだけではなく、ファンである自分自身の心も使ってマーケティング施策を考えるケースが増えている」(加藤氏)

また、動画配信サービスなどのコンテンツ配信事業者では、これまでは新規サービス加入促進や離反防止が大きなテーマだったが、現在では「人=会員」に着目し、そのインサイトを捉えてマーケティングを展開するケースが増えているという。

「その会員の感情がどう動いているかを捉える例として、その人がどんなジャンル、俳優、シリーズのコンテンツが好きなのか、行動履歴などのデータを活用してその人の嗜好性を探っていく。その人が好きなコンテンツ、その人の興味のあるコンテンツを深く探っていく」(加藤氏)

これら2つの例からは、顧客の熱量や、熱量が生み出される源泉となる興味関心をデータで把握し、ファン心理を盛り上げていこうという意図が感じられる。加藤氏は、データと感情を組み合わせる上で重要なこととして、マーケティングをする側も「ファン」であることと、顧客と一緒に盛り上げようというスタンスが重要であると指摘する。

「データを扱うと統計・分析で何かを導き出すというイメージが強いが、計算でサービスをどのように知ってもらうかというだけでなく、実際に自分もファンだというところをうまく盛り上げるポイントとして活用していく。一緒に盛り上がっていこうというスタンスをどうとっていくかが、今後データと感情を組み合わせる上では重要になってくるのではないか」(加藤氏)

その上で、加藤氏はまとめとして企業のSNS運営で重視すべき4つのポイントを挙げた。

1.プラットフォームの特性を加味した上で、SNSのデータを取り込んでウォッチする
2.既存ユーザーの動き、行動パターンを捉え、どのようなユーザーがどこにいるのかを見つけていく
3.数字=データだけで語らず、データが生み出す変化や空気感を言語化する
4.とにかく継続し、ファンと同じ波に乗る、ファンと同期していく

  • データと感情を組み合わせていく上でのポイントを説明する加藤氏