――山口プロデューサーはフジテレビご出身ですが、今回の日本テレビ制作のドラマと作り方などの違いを感じますか?
日テレは撮影とか仕上げとか本当に無理や無駄なくやっていて、脚本もちゃんとクランクインするときには長さも含めて完全にできていて、現場で無用な混乱もない。フジテレビの頃は無駄だらけで、50分のドラマなのにオフライン編集で20分以上長いとか絶望的な感じで(笑)、それを編集室で徹夜でちょこちょこ削るとかやってましたね。いまはそんなこともないのかなあ。
日テレは昔からそういうところが効率的で整然とした組織だと思います。例えば水曜10時と土曜10時のドラマ枠のそれぞれの特徴、差別化も、会社としてちゃんと決められていて共有できている。フジテレビだと、時々「月9をぶっ潰す!」みたいなことを言い出す新人プロデューサーとかが出てきて結局はぶっ潰せなかったりするんだけど(笑)。フジテレビはそういう風に混沌や混乱の中から作り上げる感じですかね。
とにかく日本テレビでは櫨山プロデューサー率いるスタッフの仕事ぶりも大変勉強になってまさしく『ビギナー』の気分です。
■これからのテレビドラマ「面白い時代になる」
――時代が変わって、これからのドラマの作り方は変わってくるのでしょうか。
私の作品で、『ナニワ金融道』と『闇金ウシジマくん』を比べてみます。
『ナニワ金融道』は、扱う題材は「どんなカネでもカネはカネ」というわけで一見奇抜に見えますが、物語の構造は視聴者の目線に立った中居正広くん演じる新人の主人公が全く知らない金融の世界で迷い失敗しながら成長していくというオーソドックスなものです。 一方、『闇金ウシジマくん』で山田孝之くんが演じる主人公は物語の当初からすでに「でき上がっている」。つまり成長しないし、ブレない主人公なのです。
それは大前春子もそうだし、同じ中園さんの『ドクターX』で米倉涼子さんが演じる大門未知子もそう。遊川(和彦)さんの『女王の教室』(05年)で天海祐希さんが演じる阿久津真矢を観たときに衝撃と共にそれを強く感じたのですけれど、視聴者が、主人公の成長を待てない、すでに完成されキャラの立った主人公を希求している、そういう時代がすでに到来しているのです。
だからこれからのテレビドラマは完成されたキャラクターを用意して物語のうねりを短く激しくして、他の有料の競合コンテンツなどと競争していくことを迫られる。より苛烈に競争原理や資本の論理が働いて厳しい時代になるけど、そうなると逆により狭い層を狙った、よりうねりのない緩い作品を作るヤツも現れたりで、実に面白い時代になると思っています。
――ストーリーの描き方も変わってくると。
脚本を例にとると、今はなんとか1人の脚本家が書くということが多いと思うんですが、もっと細かい分業になっていくと思います。ストーリーの骨格を作る人、脚本の流れを作る人、セリフを書く人、専門的な肉付けをする人と、チームで仕上げていかないと、資本の力で同じく大きいチームで手分けして作られる海外の配信作品などのストーリーに太刀打ちできないのではないでしょうか。
当然、キャラクターやエピソードはいくらあっても足りなくなるし、作品全体を取り仕切る「ショーランナー」といったプロフェッショナルも、より必要になってくるでしょう。
●山口雅俊
兵庫県神戸市出身。フジテレビで『ナニワ金融道』シリーズ、『ギフト』、『きらきらひかる』シリーズ、『カバチタレ!』、『ロング・ラブレター~漂流教室~』、『ランチの女王』、『ビギナー』などをプロデュース、05年に独立。株式会社ヒントを設立し、プロデューサー、あるいは監督や脚本家として、『ハケンの品格』のほか、映画『カイジ』シリーズ、ドラマ・映画『闇金ウシジマくん』シリーズ、ドラマ『やれたかも委員会』、ドラマ『新しい王様』などを手がける。