• 居酒屋で客を盛り上げる澤井淳一郎さん(右)ら家族たち (C)フジテレビ

撮影を進める中で、新型コロナウイルスの感染が拡大し、東京から大阪まで取材に行くことができなくなったが、そのピンチを救ったのは、何を隠そう澤井家の人たちだった。普段から子供たちの出場する空手の試合など、家族の様々なシーンをビデオ撮影する習慣があったため、撮影していた家族の映像を、番組に提供してくれることになったのだ。

そんな中、父・淳一郎さんが新型コロナに感染し、重症化。人工呼吸器でも回復が見込めず、“最終段階”の治療に賭けるまで急激に容態が悪化してしまった。

居酒屋の営業自粛を余儀なくされるなど一家は大ピンチを迎えるが、家族が撮影していた映像には、大黒柱が不在の中でも逆境を乗り越えようと奮闘する子供たちの頼もしい姿が映し出されていた。メールや電話でやり取りするしかなかった李氏も「子供たちが、より自分たちの足で立つようになった印象でした」と感心する。

この期間心配したのは、やはり淳一郎さんの容態だ。撮影が進められないため、ディレクターとしては自宅待機であれば、それまで撮りためた映像素材のチェックや編集もしたいところだが、その作業に手を付けることが、しばらくできなかったという。

「非常に密着していた人が、もしかしたら亡くなってしまうかもしれないと思ったときに、元気な頃の姿を見ることができなかったんですよね…」

淳一郎さんは入院後、病室から家族に向けてスマートフォンの自撮り動画でメッセージを送っている。その素材も番組で使用しているが、息苦しそうにしながら懸命に言葉を発する姿には、胸が締め付けられる。

■これからのドキュメンタリーの密着取材は…

30年以上にわたってドキュメンタリーを制作してきたベテランの李氏だが、コロナ禍で取材不可能という経験したことのない事態に、今後の密着取材の仕方も考えさせられたという。

今回のケースは、家族の記録映像に助けられたが、「澤井さんの家の中に入って、お風呂場でもインタビューしましたけど、ああいう取材はできなくなるでしょうね。カメラを立てて無人で撮影するとか、映像素材の集め方にいろいろバリエーションが出てくることになると思います」と予測する。

後編では、病と闘う淳一郎さんと家族の姿を中心に描かれるが、「大家族の結束が少し揺らぎ始めたときに、コロナが同時に起こってくる。そういうことって、我々の人生の中でもあると思うんですよね。今だったら、大雨の災害があって地震も頻発してくるとか、そういう複合的に人生の危機が襲いかかるときに、家族のつながりで乗り越えようとする姿が見られるので、そこが視聴者に向けてのメッセージになると思います」と語っている。

  • 澤井さん一家 (C)フジテレビ

●李憲彦
1962年生まれ、茨城県出身。東京都立大学大学院修了後、88年制作会社に入社し、『知ってるつもり?!』『ザ・ノンフィクション』などの教養・ドキュメンタリー番組、企業映像などを制作。06年に制作会社・クリエイティブBeを設立し、代表取締役を務める。