「蔦屋家電+ 大賞」は1年間の総決算
蔦屋家電+の1年を象徴しているのが、2019年4月から2020年1月の間に展示されたプロダクトから、最も注目を集めたものに贈られる「蔦屋家電+ 大賞」だ。
来店者からの注目度によって選ばれる「蔦屋家電+ 大賞」、TSUTAYA事業を展開するCCCグループのクラウドファンディングサービス「グリーンファンディング」に参加しているプロダクトから選ばれる「GREEN FUNDING部門」、蔦屋家電+運営スタッフの投票によって決まる「蔦屋家電+スタッフ部門」、これら3つの部門で構成されている。
その評価基準は「AIによる画像解析で、来店者の滞在時間と体験人数の1日平均を算出して、最も注目を集めたもの」と、なかなか斬新だ。
「普通の投票形式も考えましたが、蔦屋家電+を語るうえで欠かせない『画像解析』を活用したいと思って。あと、こうした行動データって、良い意味で自意識が出ないというか、生っぽい結果が出るんじゃないかという狙いもありました。その結果、画像分析を使った『大賞』と投票を行ったスタッフ部門の金賞が同じプロダクトになったんです」(木崎氏)
なんと、大賞に選ばれたプロダクトは、スタッフ部門とのダブル受賞を達成。一体どんな製品なのだろう。
「『蔦屋家電+ 大賞』は、先ほども少しお話した『Gatebox』です。『スタッフ部門』の投票でも金賞だったことから、どれだけ多くの人が注目していたのかが分かります。カプセルの中にキャラクターを召喚して、会話をしたりLINEでやり取りしたりできる、まさに“未来”を感じさせるプロダクトです。同時に、多くのお客さまがキャラクターとの生活をすんなり想像できていたのも印象的でしたね」(佐藤氏)
『GREEN FUNDING部門』では、ワイヤレスの骨伝導イヤホン『earsopen PEACE』が金賞、真空管ハイブリッドアンプの『UA-1』が銀賞、スリープロボット『somnox』が銅賞に輝いた。
「earsopen PEACEは、聴覚補助用モデルもあるため、聴覚にハンデがある方のご家族・ご友人からのお問い合わせが多かったプロダクト。ここまでスタイリッシュな聴覚補助イヤホンはほかにありません! 銀賞のUA-1は、真空管アンプなのにとにかくかわいい。展示しているのを知って、わざわざ遠くから来られたお客さまもいました。長野のメーカーさんなのですが、受賞したことが地方紙に掲載されるなど、思った以上に話題になってうれしかったです。銅賞のsomnoxは、呼吸するように伸縮する、睡眠導入のためのだきまくら。『確かにリラックスできる』との声も多かったのですが、値段がネックだったのか、クラウドファンディングは未達に終わってしまいました」(佐藤氏)
『スタッフ部門』では、前述の通り「Gatebox」が金賞を獲得した。そして、銀賞を受賞したのは、期間を設定して時間の流れを可視化する時計「STORY」。文字盤の上に浮かんだオブジェクトが、「1時間」「1週間後」「●月●日の誕生日」など、設定した期間までにひと回りの円を描くというストーリー性や、思わず見蕩れてしまう美しいデザインが人気を集めたようだ。
「これも『Sisyphus』と同じく時間泥棒。見た目の美しさだけでなく、製品のコンセプトに共感する声も多かったです」(佐藤氏)
同じ銀賞にもう1プロダクト。キャップ型のレーザー育毛器「Capillus 202」だ。キャップをかぶって育毛する強烈なアイデア、96カ国で効果を認められた性能が支持され、美容フロアで販売されるようになった。
「いままでブラシ型やヘルメット型がほとんどだったので、このデザインは画期的。1日6分かぶるだけ、脱ぐと照射が一時停止するなど、機能性も抜群です!」(佐藤氏)
銅賞は「麹町勝覧」というメディアアート。3Dで江戸時代の麹町を再現し、AIで動きが制御された人々が行き交う。同じシーンが再現されることはなく、本当に城下町の風景を眺めているかのようだ。
「銅賞の麹町勝覧では、映像内の人がぶつかりかけたら会釈をしたり、夜になると幽霊が現れたりするんですよ」(佐藤氏)
「蔦屋家電+ 大賞」の投票・集計が行われたのは、新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言の真っ只中。企画者の佐藤さんは「本当にこの企画をやることに価値はあるのか」と大きな不安を抱えていたという。
「メーカーさんや出展者さんも大変な時期だろうと思い、ご連絡するのもリリース解禁の直前でした。すると、想定外に喜びの声が聞こえてきて。『Gatebox』さんからはヒカリちゃんの受賞コメントもいただけましたし、やってよかったんだなとホッとしました」(佐藤氏)
「世間がこういう状況でなければ、受賞メーカーさんをお招きしてトークセッションをしてもらったり、インタビューをさせてもらえたりしたかったんですけどね。でも、作り手さんへの感謝を形にできたのはよかったです。ひっそりとやったにも関わらずいろんなところで話題にしていただけて。展示が終わったプロダクトに再びスポットライトを当てるいい機会にもなったと思います。これからこういう機会を積極的に作っていくことが必要だと感じました」(木崎氏)
大賞にノミネートされたプロダクトは100点を超える。過去の展示プロダクトを改めて見直すなかで、これから力を入れていきたいテーマも見えてきたそう。
「長い時間プロダクトを見ているのは興味があるということなんですけど、その興味って必ずしもポジティブなものだけじゃないんですよね。ネガティブな意見も次の開発に活かすことができたら、メーカーとユーザーとの間のミスマッチ解消につながると思うんです。いまも展示中の分析レポートをお渡ししているのですが、より『出展者さまへの価値』に焦点を当てたものにしていきたいですね」(木崎氏)
コロナ禍で、できることが限られていたなかでも、1つの成功の形を示すことができた「蔦屋家電+ 大賞」。第2回は開催されるのだろうか?
「店舗のオープン前から盛大にお祝いしたいと話していたので、自粛期間中と重なってしまったのは本当に残念でした。第2回はやりたい……、いや、やります!(笑) やりたいことが溜まっている状態なので、ぜひ楽しみにしていただきたいです」(佐藤氏)
インターネットによる購買行動が普及していくなかで、プロダクトのストーリーを軸に“ショールーム”として展開する蔦屋家電+。この1年間を振り返り、改めて自分たちの価値を確信する。
「便利さや品ぞろえではインターネットに勝てないと思いますし、ECの利用者はこれからも増えていくでしょう。ただ、蔦屋家電+は、モノに触って、体感して、コミュニケーションする場。単純に商品を売り買いするだけではありません。むしろ、ECが一般化して、蔦屋家電+がよりプレミアムなものになれば、深いお客さまが来てくださるようになるはず。メーカーとしてもブランドを伝えるリアルの場はこれからも必要だと思います」(木崎氏)
実際、緊急事態宣言下で営業できなかった店舗を再開すると、集客数はすぐに以前の状態に戻った。さらに、7月の出展申し込み数も、緊急事態宣言前と変わらなかったという。
「斬新なプロダクトの物語」に触れるというエンターテインメントを楽しめる蔦屋家電+では、この先も、ユーザーと開発、そして店舗がともに創りあげる“未来的でプレミアムな体験”を味わえるに違いない。