『ウルトラマン誕生』は、舞台に上った数人の俳優たちが与えられた役を演じるステージショーの体裁をとっている。自分は円谷英二だと名乗る怪しい「モンスター博士」(演:田中明夫)の研究室に3人組の泥棒(ナンセンストリオ/江口明、岸野猛、前田隣)が忍び込み、怪獣を盗もうと企むが、興奮した怪獣たちが暴れ出して手が付けられなくなってしまう。困ったモンスター博士と番人たちは、科学特捜隊に救援を要請。カネゴン、ペギラ、ガラモン、M1号の『ウルトラQ』怪獣と、レッドキング、バルタン星人、アントラーの『ウルトラマン』怪獣がますます暴れる中、ついにウルトラマンが登場する。最後には、客席に座っていた本物の円谷英二監督がムラマツキャップ役の小林昭二にうながされる形でステージに姿を見せ、怪獣たちがたちまち大人しくなるといった粋な演出が施された。
演出は、後に『ウルトラマン』の監督として活躍することになるTBSディレクター、樋口祐三氏と実相寺昭雄氏が共同で務めた。実相寺氏はこのころ、歌謡ショーの中継演出で斬新すぎる映像表現を試みたのが原因で仕事を"干される"ことが多く、同じTBSの映画部でフィルムドラマを手がけていた円谷一氏(円谷英二監督の長男で、後に円谷プロ二代目社長となる)に誘われて円谷プロに参加し、『ウルトラQ』のシナリオ「キリがない」(ペンネーム・万福寺百合)を書いている(残念ながら未製作に終わった)。
実相寺氏が自著『夜ごとの円盤 怪獣夢幻館』の中で『ウルトラマン誕生』に触れているページがあり、ステージ収録中は想定外のハプニングが続出で、樋口・実相寺両氏が「茫然とした」と記されている。モンスター博士の「怪獣製造機」に本物の豚を使ったのだが、豚が一向に言うことを聞かず舞台をかけまわったり、さっそうと登場するはずのウルトラマンがワイヤー操作の失敗で宙づり状態になったりもしたらしいのだが、テレビ放送では『ウルトラマン』第3話「科特隊出撃せよ」のウルトラマンVSネロンガのフィルムを挿入することによって、ハプニング部分を巧みにカバーしていた。しかし実相寺氏は恥ずかしさのあまり、放送当日に「演出」のテロップを"回収し捨ててしまった"という。
『ウルトラマン誕生』はVTRをフィルムに変換(キネコ)した状態で保管され、現在では『ウルトラマン』Blu-ray BOX(I)の特典ディスクでも観ることができるが、「出演者」や「脚本(金城哲夫)」、「音楽(宮内国郎)」などのテロップがあるのに「演出」だけが存在しないのには、このような出来事があったからだった。演出上の大失敗を局から責められると思った実相寺氏だが、幸いにも『ウルトラマン誕生』の視聴率が30%近い好成績を残したため、すべて水に流してもらえたという。実相寺氏はこの後『ウルトラマン』の演出チームに本格参入を果たし、脚本家・佐々木守氏と組んで数々の異色作・傑作を送り出すことになるのは、ウルトラマンファンのみなさんならご存じのとおり。
「前夜祭」では、ウルトラQ怪獣、ウルトラマン怪獣と共に、科学特捜隊の面々とホシノ少年のお披露目も行われ、それぞれが自身のキャラクター設定を説明する場面があった。モンスター博士の番人役を務めたコーラスグループ「伊藤素道とリリオリズムエアーズ」が「ウルトラマンの歌」「特捜隊の歌」をテレビシリーズ(みすず児童合唱団とコーロステルラ)とは一味違うバリトンの魅力で歌いあげているのも、強い印象を残した。
1978年に発売されたLPレコード『サウンド・ウルトラマン!』のライナーノーツ(竹内博氏)によれば、『ウルトラマン』のPR展開は6月25日に開催された「札幌こども大会」を皮切りに、7月中旬まで東京、名古屋、大阪、福岡という5地区の街頭にウルトラ怪獣を進出させ、PR用の絵葉書を配っていたという。そんなPR作戦の集大成といえるのが、7月10日放送の『ウルトラマン誕生』なのであった。
『ウルトラマン誕生』には、翌週の7月17日より始まる『ウルトラマン』第1話「ウルトラ作戦第一号」の予告編もついており、今も昔も変わらない「新番組が始まる際のワクワクする感情」を呼び起こしてくれる。
初めて地球の子どもたちの前に姿を現してから"半世紀"以上が経ってもなお強い人気を保ち続けると同時に、現在好評放送中『ウルトラマンZ』に至るまで多くの"後輩たち"を生み出してきた、偉大なる巨大ヒーローの原点『ウルトラマン』。その誕生を記念した「ウルトラマンの日」=7月10日は、ウルトラマンを愛する人たちにとって忘れられない日に違いない。
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