いきなりの質問で恐縮だが、読者の皆様はふだん音楽を聴くとき、どういったサービスを使っているだろうか? おそらく、まずは最新のミュージックビデオなどがタダで楽しめるYouTubeが筆頭に挙がるだろうか。サブスク配信なら、iPhoneとの親和性が高いApple Musicを使っている人もいれば、「好きなアーティストの曲が無料でたくさん楽しめるから」とSpotifyのフリープランを愛用している人もいるハズ。“音楽配信の大海原”は実に広くて深く、そこにはほかにも多様なサービスが存在する。
数ある中で、筆者は最近、主に高音質ストリーミングサービスの「Amazon Music HD」と「mora qualitas(モーラ クオリタス)」を気分で使い分けて楽しんでいる。特に6,500万曲以上が聴き放題のAmazon Music HDは、HD音質(CD相当の44.1kHz/16bit)やUltra HD音質(最大192kHz/24bit)の楽曲が用意されており、スマホやPCだけでなく、自宅に置いてあるマランツのミニコンポ「M-CR612」に備わっているネットワークプレーヤー機能で単体受信して高音質に聴けるので、とても重宝している。
mora qualitasは曲数は公表していないが、96kHz/24bitまでのハイレゾ音源とCD音質の楽曲を多数用意。スマホやPCから高音質再生を楽しめ、PCでは音質を重視したモードとして、WASAPI/ASIO(Windows)、Exclusiveモード(Mac)に対応しており、さらにiOSデバイスでも外付けDACを別途用意することでデジタル情報が欠落なしに再生できる、ビットパーフェクト再生が可能だ。Andorid版アプリは残念ながらビットパーフェクト非対応だが、ソニーのAndroidウォークマンではハイレゾ再生が可能になっている。
自宅で過ごす時間が長くなる中、筆者は日中家事などをこなしながら気を紛らすためにSpotifyの流行曲プレイリストを流すこともある。仕事柄、新しいサブスク配信サービスはひと通り試してみて気に入ったら使い続けており、Spotifyもそのひとつ。多彩なプレイリストやSpotify Connectといった便利機能など、イマドキのサブスクに欲しいものが網羅されていて好印象だけれど、非可逆圧縮で元の音源に対して音質的なロスがあるのも事実だ。
そこで音楽に没頭したいときは、聴きたい曲が何でもそろうAmazon Music HDと、音質面に強みのあるmora qualitasの2つを使っている。Amazon Music HDはプライム会員なので月額1,780円(税込)、mora qualitasは月額2,178円(同)と、月々の出費は決して安くないが、欲しいCDを何枚も買ったり、CDよりも音が良いハイレゾアルバムを沢山ダウンロード購入していた頃に比べれば、はるかにおサイフにやさしい。アカウントさえあれば、スマホやウォークマン、PCでいつでもどこでも良い音が楽しめるのだから、便利になったものだ。
ストリーミングウォークマンの“ある弱点”
ただ、ウォークマンに関してはひとつ重大な問題があった。それは、普段使っているストリーミングウォークマンの入門モデル「NW-A100」(2019年発売)が、ハイレゾ音質のストリーミング再生には対応できておらず、せっかくの高音質設計の恩恵をフルに受けられていなかったことだ。ストレージに保存したローカルのハイレゾ音源はいい音で楽しめるのに、「Amazon Music HDで作ったプレイリストを聴きたい」と思ってもウォークマンでは音質がスポイルされてしまい、音にこだわりがある身として残念な気持ちになることも少なくなかった。
しかし、これには事情がある。2019年に登場したAndroidウォークマン「NW-A100/ZX500」シリーズは、2015年の「NW-ZX2」以来となるAndroid OSの採用により、音楽ストリーミングサービスをはじめとするさまざまなアプリが使えるように進化。内蔵ストレージやmicroSDカードに保存したハイレゾ音源を標準の「W.ミュージック」アプリで再生するときは、専用オーディオパスを使うことで最大384kHz/32bitで再生できる。だが、ハイレゾストリーミング再生時はこのオーディオパスではなく、OS標準のSRC(サンプリングレートコンバーター)を介して音声出力する仕様により、48kHz/16bitにダウンコンバートして音質を落とさざるを得なかったのだ。
SRCは音楽に限らず、OSのシステム音などあらゆるサウンドをきちんと扱うための仕組みなので、致し方ないところではある。とはいえ、ユーザーの中から「せっかくのハイレゾウォークマンなのに、高音質ストリーミングをそのままの音で聞けないのは納得できない」という声が上がるのも無理はない。
こうしたユーザーの声は当然、ソニーのウォークマン開発陣にも届いており、2020年2月のNW-A100/ZX500シリーズの本体ソフトウェア更新の折、時期未定としつつも「ハイレゾストリーミング対応」に関する機能強化を検討していることを告知。その後、5月28日に提供開始した本体ソフトウェアVer 2.00.05で、ついにストリーミングサービスのハイレゾ音源をハイレゾのまま再生できるようになった。
ストリーミングウォークマンのいちユーザーとして、このアップデートは非常にワクワクする内容であったが、一方で気になることもある。
- ダウンコンバートされなくなった高音質ストリーミングを本当に「音が良い」と実感できるのか?
- ハイレゾストリーミング再生では、電池の消費量が増えるそうだが、実際どれくらい保つのか?
前置きが長くなったが、今回は手持ちのNW-A100TPSの本体ソフトウェアを更新し、Amazon Music HDとmora qualitasを使って簡単な音質比較とバッテリー保ちを試してみた。
※編注:NW-A100TPSは期間限定発売のウォークマンで、現在は販売終了。通常のNW-A100シリーズは、16GBモデルが実売32,990円(税込)など。
余談だが、AndroidのSRCにまつわる問題は何もウォークマンに限らず、Android OSを採用するポータブルオーディオプレーヤーの多くがハイレゾストリーミング再生にあたり直面する壁でもあった。以前から、iBasso Audio「DX160」やShanling「M6 Pro」、FiiO「M11 Pro」といった一部のポータブルプレーヤーでは、Amazon Music HDなどの音質を落とさずロスレス出力できるよう工夫を凝らしており、イベントなどでマニアの注目を集めていたことも記憶に新しい。
Android 10ではハイレゾ再生に関する機能を標準でサポートしているそうなので、今後はSRC回避などをしなくていいようになるのかもしれない。新たなAndroid搭載プレーヤーに期待したいところだが、それはともかくとして、さっそく本題に入ろう。
ウォークマンでハイレゾストリーミングの準備をする
NW-A100/ZX500シリーズで、ストリーミングサービスを利用してハイレゾ音源を再生するには、まずは本体ソフトウェアをVer.2.00.05以降にアップデート。無事に更新できたら、設定メニューの[音]>[ハイレゾストリーミング]にあるトグルスイッチをオンにして再起動をかければ準備完了だ。詳細はソニーのサポートページに情報が上がっているので、そちらのページを見ていただきたい。なお、この機能は有線接続時のみ有効で、ワイヤレス接続時はLDAC(最大96kHz/24bitの伝送ができるハイレゾ相当のコーデック)であっても無効となる。
再生前に、各アプリのストリーミング再生時の音質設定も見直しておこう。Amazon Music HDアプリでは、設定から[ストリーミング設定]の項目で「HD/Ultra HD」を選ぶ。mora qualitasアプリでは[再生]>[Wi-Fi]で「ハイレゾ+CD音質」にしておく。