Appライブラリでの提案、手書き文字の正確な選択、オフラインでも使える翻訳アプリなど、さまざまな新機能でNeural Engineが活躍する。これらはAppleのプライバシー戦略の賜物といえる。AppleがAI解析をクラウド任せにせず、オンデバイスの機械学習機能に力を注いできたからだ。
基調講演ではほかにも、この秋に提供する予定のたくさんのプライバシー保護強化が紹介された。
内容盛りだくさんのキーノートにおいても、Appleは「プライバシー」について語るセクションを設けた。そうしたプライバシー重視の姿勢を、Googleとの競争におけるマーケティング戦略と見なす人もいる。
だが、AppleはGoogleとの競争どころか、Googleが誕生するよりずっと前からプライバシー保護を企業の行動原則としてきた。例えば、1977年に「Apple II」を発表した時、同社がアピールしたのはフロッピーディスクドライブを搭載したことではなかった。メインフレームと違って、自分だけのフロッピーディスクに自分のデータを保存して自分で管理できる。自分のデータであり、だからApple IIは“パーソナル"コンピュータ”だった。
Web、モバイル時代を経て、今Appleは「データの最小化」「オンデバイスの機械学習」「セキュリティ」「透明性とコントロール」の4つをプライバシー保護のコアとしている。昔と今ではプライバシー保護の取り組みは異なるが、プライバシーに基づいてパーソナルデバイスを作り、行動する姿勢に変わりはない。
iPhoneで標準メールや標準ブラウザの変更が可能に。だが…
最後に、スライドのみで紹介された親機能を2つ紹介しておこう。1つはiOS 14/iPadOS 14で標準のメールとブラウザを「メール」「Safari」から変更できるオプション、そして、HomePodのサードパーティの音楽サービスのサポートだ。これらに大喜びしているユーザーは多い。だが、Appleは基調講演で取り上げなかった。
近年のAppleは、プラットフォームの力を大きな成長ドライバとしている。iOS 14では「App Clips」というApp Storeの新機能を利用できるようになる。例えば、自転車シェアリングを使いたい時、そのサービスのアプリをインストールしていなくてもApp Clipsに対応していたら、iPhoneでNFCやQRコードを読み込むような簡単なステップで、ミニアプリを使ってすぐに借りられる。ユーザーにとって便利なサービスであり、「Appleでサインイン」とApple Payによる支払いでその利便性を実現している。
Appleの依頼でアプリ市場を調べたAnalysis Groupによると、App Storeを通じて流通するアプリの経済規模が5190億ドル(約55兆7000億円)に達した。App Storeを中心に巨大な経済圏が形成されている。だが、順風満帆な状態ではない。
6月16日にEUの欧州委員会が、AppleのApp StoreとApple Payについて競争法違反の恐れがあるとして正式調査を開始した。標準メールや標準ブラウザの変更オプションなどは、競合を排除していると非難する声の増加に対応したものと思われる。
加えて、WWDC直前にBasecampとの衝突が勃発した。Basecampのメールアプリ「HEY Email」について、Appleがガイドラインに従ってアプリ内購入を利用するように求めたのに対して、提供するBasecampが不満を爆発させた。そのやり取りにおけるAppleの対応を知った人々の間でBasecampを支持する動きが広がり、今年のWWDCはAppleと開発者コミュニティの関係があまり良好ではない状態で始まった。
6月22日にAppleは、App Store審査の特定ガイドラインに違反しているかどうかについてアプリ開発者が不服申し立てできるだけではなく、当該ガイドライン自体に異議申し立てをする仕組みをこの夏の設けることを明らかにした。現状のルールを変えずに、柔軟に対応できるようにした。現段階でその効果は未知数だが、適切なガイドラインの運用につながるか、今後の動向に注目していきたい。