――新型コロナウイルスによる影響で、日本ではこれまでなかなか馴染みのなかったテレワークが急速に浸透し始めています。つんく♂さんは今回の絵本含め、ハワイ移住後はテレワークがメインになったかと思いますが、コロナ後はどのような状況ですか?
これからの世の中でいうと、もしかしたら6歳くらいの少年でも通販で母の日の買い物をする世の中がやってくるでしょう。普遍的な物語であるような気もしたけど、冷静に考えたら新型コロナ後の世界は違ってくるのかもしれません。
ハワイでは、新型コロナの前からパソコンを使った授業は当たり前で生徒一人ひとりにメールアドレスとIDがあるので、今回のように急にオンライン授業になっても1週間もすれば授業が始まっていました。
その中でZOOMを使いこなす(設定は僕がするので、何かと勉強になるわけです)中、日本の対応の遅さに驚くというか、危機感を抱きました。僕の場合、僕の周りも普段からLINEやオンライン(会議などで)を使うので、日本に居てもハワイに居ても大きく問題はなかったんですが、今回に関しては、教育も仕事も日本側がなかなか足並みが合わず、大変でしたね。それもこれも子どもがハワイで生活してた中で、アメリカの普通を知っていったから対応できたんですが、思えば子どもから教わることばかりですね。
――日本よりもかなり進んでいるようですね。
進んでるというか、韓国、中国、ヨーロッパを見ても、それが普通なので日本が遅いんでしょう。それでもオンライン会議だと1時間かかって解決する内容も実際に顔を見ながら会議をすれば10分もかからず解決することも多いでしょうから。オンライン会議もメリットも、デメリットもある。ただ、日本においてはメリットの方が今は多いでしょう。早く国際水準になってほしいですね。
ハワイに住んでると日本の良さ、芸の細かさ、隅々にいたる配慮を本当に感じます。100円均一で売ってるものであっても欠陥商品なんてほぼなく、そして、素晴らしいし本当に低価格。ただ、その反面、先進国だけどもトラディショナルな部分に対して、残すべき良い点と、捨てるべき取り残されてる部分があるように思います。
例えば、義務教育含めた学校に関して、9月入学が議論になりましたが、時期の問題よりも、教科書を毎日ランドセルに入れて持ち歩かないちとイケない。机に入れっぱなしはダメ。宿題も全てプリントや学校指定のワークブック。持ってくるのを忘れると0点みたいな慣例等には不自然さを感じます。パソコンやiPadを一つ持ちあるき(もしくは学校と家と別々でもいいけどね)、教科書や参考書はKindleに入っていれば良いし、小学校3~4年生あたりからは、Googleスプレッドシート等を使えば宿題も提出物も持ち歩く必要もないし。文字の練習や書道、お絵かきに必要なもののみ用意すればいい。コロナ禍の中、そんなことを強く感じました。ランドセルや教科書や指定の問題集って何への忖度なんだろう……なんてね。笑。まあ、それと同じようなことがビジネスにもあるんだと思います。
■“JPOP改革期”を迎えて思うこと
――絵本の無料開放にあわせて、「このような状況でも、我々クリエイターはものづくりを止めてはいけない」とコメントを発表されていました。人々が「新しい生活様式」とも向き合っていく中で、つんく♂さんご自身は今後の「ものづくり」をどのようにお考えでしょうか?
ものづくりと一括りに全てのことを語ることは出来ません。我々のようなビジネス音楽から伝統芸能、陶芸や絵画、生活に必要な工具なんかも全てはものづくりです。
僕らのいわゆるビジネス音楽、俗にいう「JPOP」だとしたら、それは完全に改革期です。日本はついこないだまで握手会やサイン会ありきでパッケージCD、DVDを売ることメインでやってたので、今回のコロナ禍で完全にそのスタイルは終了しました。頭の中で構築するだけなら僕らアーティストはタダで物事を考えることが出来ます。が、しかし、未来にむかって勉強してくためにも、新しい何かを商品にするためにも予算はかかります。
今の学生たちがプロになるためにも頭の中で考えるだけでは作れません。学びや経験が必要です。ある程度はYouTubeやオンライン講義で出来るのかもしれませんが、手で触って、体験してしか覚えられないものもたくさんあると思います。何をするにもリスクは自分にあるのだということを踏まえながら経費を捻出してものづくりを続ける他ないように思います。
文化を絶やすことはその民族にとってもマイナスだらけです。歴史を振り返っても切って切り離せないはずです。どうかみなさまで我々の市場を応援していただきたいと願っています。よろしくお願いします!
■プロフィール
つんく♂
1968年10月29日生まれ。大阪府出身。音楽家、エンターテインメントプロデューサー、作詞・作曲家、総合エンターテインメント株式会社(TNX株式会社)代表取締役社長。1988年シャ乱Qを結成。1992年にメジャーデビューし4曲のミリオンセラーを記録。その後、モーニング娘。をプロデュースし、代表曲「LOVEマシーン」(99)は176万枚以上のセールスを記録。ハロー!プロジェクトを始め数々のアーティストのプロデュースやNHK Eテレ『いないいないばあっ!』を含む数多くの楽曲提供、サウンドプロデュースを手掛け、現在JASRAC登録楽曲数は1,900曲を超える。